近世|第7章 17世紀の社会 — 身分・宮廷・都市・民衆
この章の狙い
要点: 17世紀の作品を読むとき、いちばん効くのは「誰が書き、誰が読んでいたか」を知ることである。
読者はごく限られていた。書物を買え、劇場に通え、サロンに出入りできる層である。古典主義の「節度」や「洗練」は、この狭い世界の中の価値にあたる。作品の外側にいた大多数の人々は、まったく違う条件で生きていた。
三身分の中身
| 身分 | 人口比の目安 | 実際の中身 |
|---|---|---|
| 第一身分(聖職者) | 1%未満 | 上層は貴族出身で富裕、下層の司祭は貧しい |
| 第二身分(貴族) | 1〜2% | 宮廷貴族から、田舎の困窮した貴族まで幅が大きい |
| 第三身分 | 97%以上 | 農民が大半。都市の商人・法曹(ほうそう)・職人・貧民も含む |
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⚠️ 身分は「豊かさ」の区分ではない
- 貧しい貴族もいれば、貴族より豊かな平民もいた。
- 身分が決めるのは、課税・裁判・就ける職・服装などの法的な扱いにあたる。
- この区分が、能力や富と一致しなくなっていくことが、18世紀の不満の根になる(第8章)。
貴族の2つの種類
- 📘 帯剣貴族(たいけんきぞく):軍事的な奉仕に由来する、古くからの貴族のこと。
- 📘 法服貴族(ほうふくきぞく):官職を買い、それを世襲することで貴族になった層のこと。高等法院の判事などがこれにあたる。
⚡ 2つの層の関係
- 帯剣貴族は、法服貴族を成り上がりと見なした。
- 法服貴族は、教育と法の知識を持ち、行政の実務を担った。
- 売官の仕組み(第6章)が、この層を生んだ。
- 文学の作者にも読者にも、法服貴族の出身者が多い。
宮廷という場
ヴェルサイユに集められた貴族は、王の周りでの序列を争った。
⚡ 宮廷での価値
- 王に近づけるかどうかがすべて。起床や食事の儀礼に立ち会える者が上位にあたる。
- 年金・官職・恩恵が、王を通じて配分された。
- 礼儀作法と会話の巧みさが、実際の地位に影響した。
- この環境が、人の動機を観察する文学を育てた。モラリストの箴言(しんげん)はここから出てくる。
⚠️ 宮廷=フランス全体ではない
- 宮廷に出入りしたのは、貴族の中でもごく一部にあたる。
- 地方には、宮廷を見たことのない貴族が多数いた。
- 文学が描く「社交界」は、人口比では極小の世界である。
パリとサロン
パリは17世紀を通じて成長し、ヨーロッパ有数の大都市になった。印刷業、劇場、書店、そしてサロンが集まる。
- 📘 サロン:貴族や富裕な市民の邸宅で開かれた、文学や会話を楽しむ集まりのこと。女性が主催することが多かった。
⚡ サロンが果たした役割
- 作品が発表され、評価される場にあたる。出版前に朗読されることもあった。
- 言葉づかいの規範が作られた。「洗練された話し方」の基準がここで決まる。
- 女性が文学の判断者として力を持った、数少ない場にあたる。
- 宮廷とは別の、もう一つの中心として働いた。
劇場と観客
| 要素 | 内容 |
|---|---|
| 上演の場 | 常設の劇場のほか、宮廷や貴族邸でも上演された |
| 観客 | 貴族・法服貴族・富裕な市民。立ち見の平土間(ひらどま)には幅広い層がいた |
| 統制 | 上演には許可が要る。宗教的・政治的な問題があれば禁止された |
| 経済 | 一座は保護者と入場料の両方に依存していた |
⚡ 上演禁止が作品を変える
- 宗教的な主題を扱った喜劇が、上演禁止と改訂を経て世に出た例がある。
- 作者は、通る形に書き直すことを迫られた。
- したがって、残っている本文は「書きたかった形」とは限らない(版の問題については文学研究の方法の領域を参照)。
信仰をめぐる対立
- 📘 ジャンセニスム:17世紀のカトリック内部の一派で、人間の意志の弱さと、神の恩寵(おんちょう)の絶対性を強調した。パリ近郊の修道院がその拠点になった。
⚡ なぜ文学と関わるか
- 人間は自力では善をなしえないという人間観が、悲劇や箴言の人間像と響き合う。
- イエズス会と激しく対立し、最終的に王権によって弾圧された。
- この対立に関わった作家がいる。作品の背景としてしばしば言及される。
民衆の条件
作品の外側にいた大多数の生活も押さえておく。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 食 | 穀物が中心。価格の変動が生死に直結する |
| 飢饉 | 凶作が数年続くと死亡率が跳ね上がる。17世紀後半にも大きな飢饉があった |
| 税 | 直接税は第三身分に集中。加えて塩の専売など間接税の負担が重い |
| 一揆 | 17世紀を通じて各地で反乱が起きている。多くは徴税への反発 |
| 識字 | 地域差が大きい。読み書きできる者は少数にあたる |
⚠️ 「古典主義の時代」の像に引きずられない
- 秩序と洗練の時代として語られることが多いが、同じ時期に飢饉と反乱が繰り返されている。
- 文学に残っているのは、社会のごく一部の声である。
- この非対称(ひたいしょう)自体が、レポートの切り口になる。
文学とのつながり
⚡ 17世紀の作品を読むときに要る背景
- 悲劇 — 宮廷と貴族の観客を前提とする。主人公はほぼ王侯貴族にあたる。
- 喜劇 — 幅広い観客に届く。社会の類型(るいけい)を笑うが、体制そのものは揺るがさない。
- モラリスト — 宮廷での観察が材料になる。人の動機への疑い。
- 書簡と回想録 — サロンと宮廷の記録として、当時の史料でもある。
「読者は誰か」を1文書けるだけで、レポートの序論が具体的になる。
⚠️ この時代で混同しやすい形
- 貴族をひとまとまりと考える。帯剣貴族と法服貴族では、出自も価値観も違う。
- サロンを宮廷の一部と考える。都市の私邸で開かれる、別系統の場にあたる。
- ジャンセニスムをプロテスタントと考える。カトリック内部の一派である。
- 識字率が高かったと考える。読者は人口のごく一部にあたる。
貨幣と物価の感覚
作品に出てくる金額を、生活の感覚に置き換えられると読み方が変わる。
| 目安 | 内容 |
|---|---|
| 職人の日当 | 1日あたり十数から二十数スー程度とされる |
| 単位 | 1リーヴル=20スー、1スー=12ドニエ |
| パン | 家計に占める比率が非常に高い。価格の上下が生死に関わる |
| 年金 | 作家が保護者から得た年金は、数百から数千リーヴルの幅がある |
⚡ なぜ確かめる価値があるか
- 「大金」と書かれていても、どれほどかは分からない。日当と比べると意味が出る。
- 19世紀の小説でも同じ作業ができる。フランは19世紀の単位にあたる。
- 数字を比較すると、印象ではなく根拠のある記述になる。
- ただし時期と地域で差が大きい。必ず出典を示す。
読者はどれくらいいたか
⚠️ 部数の感覚
- 17世紀の書物の初版は、数百から千数百部程度のことが多い。
- 劇場のほうが、より多くの人に届いた。1回の上演で数百人が観る。
- 朗読と口伝えで広がる部分も大きい。読める人が読んで聞かせる形にあたる。
- したがって「読者」は、本を買った人より広い。この点を踏まえて読者層を論じる。
⚡ 第7章の通過チェック
- 三身分の人口比のおおよそを言える
- 身分が決めるのは豊かさではなく法的な扱いであることを説明できる
- 帯剣貴族と法服貴族の違いと、後者が生まれた仕組みを言える
- 宮廷での価値が何によって決まったかを言える
- サロンが果たした役割を3つ言える
- 上演の統制が作品の本文に影響することを説明できる
- 民衆の生活条件を4つ言える
次章へ
次章は18世紀の王国である。表向きは繁栄し、内側では行き詰まっていく70年余りを扱う。
人口が増え、貿易が伸び、書物が広がる。その一方で戦費で財政が破綻に近づき、身分制への不満がたまっていく。そして1789年、三部会が175年ぶりに招集される。