考えを述べる|第16章 接続法 — 使う場面の体系
この章の狙い
要点: 接続法(せつぞくほう)は「難しい」と言われるが、難しいのは意味ではなく、使う場所を覚えることである。接続法は自分で選ぶものではなく、前に来る動詞や接続詞によって強制される。だから「どんな気持ちのときに使うか」ではなく、「どの語のあとで使うか」の一覧として整理する。
作り方そのものは単純で、不規則な形は9語しかない。この章を抜けると、フランス語の初級文法はほぼ一周する。
接続法現在の作り方
- 📘 接続法:事実として述べるのではなく、意志・感情・疑いなどの枠の中で述べるときの法。多くは que に導かれる従属節の中で使う。
⚡ 接続法現在の作り方
- 語幹(ごかん)は現在形の ils の形から -ent を取る。
- 語尾は -e / -es / -e / -ions / -iez / -ent。
- nous と vous は半過去と同じ形になる。
| 不定形(ふていけい) | ils の現在形 | 語幹 | que je … |
|---|---|---|---|
| parler | ils parlent | parl- | que je parle |
| finir | ils finissent | finiss- | que je finisse |
| prendre | ils prennent | prenn- | que je prenne |
| venir | ils viennent | vienn- | que je vienne |
← 横に動かして読めます →
prendre や venir のように、nous と vous だけ語幹が違う動詞がある(que nous prenions、que vous preniez)。これは現在形の nous の形から作るためで、半過去と同じ形になる。
不規則な接続法
9語だけである。使用頻度が高いので、まとめて音で覚える。
| 不定形 | que je | que nous |
|---|---|---|
| être | sois | soyons |
| avoir | aie | ayons |
| aller | aille | allions |
| faire | fasse | fassions |
| pouvoir | puisse | puissions |
| savoir | sache | sachions |
| vouloir | veuille | voulions |
| falloir | (il faille) | — |
| valoir | (il vaille) | — |
← 横に動かして読めます →
être と avoir は、命令法(第10章)と同じ形である(sois、aie)。ここでも同じ形が使えると気づくと、覚える量が減る。
接続法過去
助動詞を接続法現在にして過去分詞(かこぶんし)を続ける。
| 型 | 例 |
|---|---|
| avoir の接続法現在 + 過去分詞 | que j'aie parlé |
| être の接続法現在 + 過去分詞 | que je sois allé(e) |
主節より前に起きたことを表す。Je suis content que tu sois venu.(来てくれてうれしい)。
いつ使うか — 4つの場面
⚡ 接続法を強制する4つの場面
- 1. 意志・願望・命令 vouloir que、souhaiter que、exiger que、demander que
- 2. 感情 être content / triste / étonné que、avoir peur que、regretter que
- 3. 疑い・否定 douter que、ne pas penser que、ne pas croire que、il est possible que
- 4. 必要・判断 il faut que、il est nécessaire / important / normal que
| 例 | 意味 |
|---|---|
| Je veux que tu viennes. | きみに来てほしい |
| Je suis content que tu sois là. | きみがいてうれしい |
| Je doute qu'il puisse venir. | 彼が来られるか疑わしい |
| Il faut que je travaille. | 私は勉強しなければならない |
vouloir que のあとで主語が同じ場合は、que を使わず不定形にする。Je veux venir.(私が来たい)であって、Je veux que je vienne. とは言わない。主語が変わるときだけ que + 接続法になる。
直説法をとるもの — 対比で覚える
似た意味でも直説法(ちょくせつほう)をとる動詞がある。ここが試験でも実際の作文でも問われる。
| 接続法をとる | 直説法をとる |
|---|---|
| Je doute qu'il vienne. | Je pense qu'il vient. |
| Je ne pense pas qu'il vienne. | J'espère qu'il viendra. |
| Il est possible qu'il vienne. | Il est certain qu'il viendra. |
⚡ penser と espérer
- penser que は肯定文では直説法、否定文・疑問文では接続法になることが多い。
- espérer que は肯定でも否定でも直説法。日本語の「望む」からは接続法に見えるが、違う。
- 判断の基準は「話し手がそれを事実として立てているか」。確信していれば直説法、疑いや評価の枠に入れれば接続法。
接続法をとる接続詞
接続詞そのものが接続法を要求する場合がある。動詞と違って例外がないので、一覧として覚える。
| 接続詞 | 意味 |
|---|---|
| bien que / quoique | 〜だけれども |
| pour que / afin que | 〜するために |
| avant que | 〜する前に |
| jusqu'à ce que | 〜するまで |
| à condition que | 〜という条件で |
| à moins que | 〜でないかぎり |
| sans que | 〜することなしに |
| de peur que | 〜することを恐れて |
⚠️ 時を表す接続詞で分かれる
- avant que は接続法、après que は直説法。前後で扱いが違う。
- jusqu'à ce que は接続法、quand・dès que は直説法(第13章のとおり未来形)。
- 意味からは説明しにくいので、avant que と après que を対で覚えるのが早い。
最上級・唯一のものに続く関係節
最上級や「唯一の」を表す語のあとの関係節では、接続法を使うことがある。
| 例 | 意味 |
|---|---|
| C'est le plus beau livre que j'aie jamais lu. | それは私が読んだ中でいちばん美しい本だ |
| C'est le seul ami qui me comprenne. | 彼は私を理解してくれる唯一の友人だ |
話し手の評価が入っていることを示す形である。事実の記述として述べるなら直説法でもよい。
⚠️ 接続法でやりがちな間違い
- espérer que のあとを接続法にする。直説法である。
- 主語が同じなのに que + 接続法を使う。主語が同じなら不定形。
- après que を接続法にする。avant que だけが接続法。
- 接続法に未来形があると考える。接続法に未来はない。現在の形が未来のことも表す。
読む・聴く
読み物 — Ce qu'il faut(必要なこと)
4つの場面のうち3つと、接続法をとる接続詞、最上級のあとの接続法が出る。
| フランス語 | 日本語 |
|---|---|
| Il faut que je travaille tous les jours, même quand je n'en ai pas envie. | やる気がないときでも、毎日取り組まなければならない。 |
| Je ne pense pas que la motivation soit fiable. | 意欲が当てになるとは思わない。 |
| Je doute qu'elle dure. | それが続くとは思えない。 |
| Bien que ce soit difficile, je continue. | 難しくはあるが、続けている。 |
| Je veux que mes habitudes soient plus fortes que mon humeur. | 習慣が気分より強くあってほしい。 |
| C'est la chose la plus utile que j'aie apprise cette année. | それが今年学んだ中でいちばん役に立つことだ。 |
語注
| 語 | 品詞・意味 |
|---|---|
| avoir envie de | 〜したい |
| fiable | 形容詞。当てになる、信頼できる |
| durer | 動詞(第1群)。続く |
| bien que | 接続詞。〜だけれども(接続法をとる) |
| habitude | 女性名詞。習慣 |
| humeur | 女性名詞。気分 |
| utile | 形容詞。役に立つ |
| apprendre | 動詞(第3群)。学ぶ |
読みどころ
- Il faut que je travaille は場面4(必要)。
- Je ne pense pas que … soit は場面3(否定)。肯定の Je pense que … なら直説法 est になる。
- Je doute qu'elle dure も場面3(疑い)。
- Bien que ce soit difficile は接続詞が要求する接続法。
- Je veux que mes habitudes soient は場面1(意志)。主語が「私」ではなく「習慣」なので que + 接続法になる。
- la chose la plus utile que j'aie apprise は最上級のあとの接続法過去。apprise は que が指す la chose に一致している(第14章)。
大学のフランス語で
論文では、評価や条件を述べる部分に接続法が集中する。
| フランス語 | 日本語 |
|---|---|
| Bien que ce roman soit court, il pose une question essentielle. | この小説は短いが、本質的な問いを提起している。 |
| Il faut que le lecteur connaisse ce contexte pour comprendre le texte. | テクストを理解するには、読者がこの文脈を知っている必要がある。 |
| Il n'est pas certain que l'auteur ait voulu écrire une satire. | 作者が風刺(ふうし)を書こうとしたかどうかは確かではない。 |
3つ目のように、「断定できない」ことを示すために接続法が使われる。第15章の条件法(じょうけんほう)と同じく、筆者が言い切っていない箇所の目印として読む。この2つを見分けられるようになると、論文の中で「事実として確定していること」と「解釈にとどまること」を切り分けられる。
⚡ 第16章の通過チェック
- 接続法現在の語幹の作り方と、nous・vous の形の特徴を言える
- 不規則な接続法を9語言える
- 接続法を強制する4つの場面を、例つきで言える
- penser que と espérer que の扱いの違いを言える
- 接続法をとる接続詞を6つ言える
- avant que と après que の違いを言える
- 主語が同じときに不定形にすることを説明できる
次章へ
法の話はここで一区切りになる。次章では、動詞の形を変えて文の組み立てを変える3つの仕組み —— 受動態・分詞・使役 —— を扱う。
どれも読解で頻繁に出会う。とくに現在分詞とジェロンディフは形が似ていて働きが違うので、そこを分ける。第10章で見た代名動詞(だいめいどうし)の受動用法も、ここで受動態と並べて整理する。