語をつなぐ|第10章 命令法と代名動詞
この章の狙い
要点: 命令法(めいれいほう)は、第9章で覚えた代名詞の語順が唯一ひっくり返る場所である。肯定の命令だけ代名詞が動詞の後ろに回る。代名動詞(だいめいどうし)は、主語と同じものを指す代名詞を必ず連れている動詞で、日常の行動のほとんどがこの形で言われる。
この2つを同じ章に置くのは、命令法の代名詞の位置が、代名動詞でいちばん頻繁に問題になるからである。Lève-toi(起きろ)と Ne te lève pas(起きるな)を並べて覚えると、両方が一度に片づく。
命令法の作り方
命令法には3つの形しかない。主語は書かない。
| 相手 | 作り方 | 例(parler) | 例(finir) |
|---|---|---|---|
| tu に対して | 現在形の tu の形から主語を取る | parle | finis |
| nous に対して(〜しよう) | 現在形の nous の形から主語を取る | parlons | finissons |
| vous に対して | 現在形の vous の形から主語を取る | parlez | finissez |
← 横に動かして読めます →
⚡ -er 動詞の tu では s を落とす
- Tu parles. → Parle !(s が消える)
- Tu manges. → Mange !
- aller も同じ Tu vas. → Va !
- ただし y や en が続くときは s が戻る。Vas-y !(行け)/Manges-en !(それを食べろ)
- 第2群・第3群では落とさない。Finis !、Prends !、Viens !
不規則な命令法が4つある。この4語だけ、現在形からは作れない。
| 不定形(ふていけい) | tu | nous | vous |
|---|---|---|---|
| être | sois | soyons | soyez |
| avoir | aie | ayons | ayez |
| savoir | sache | sachons | sachez |
| vouloir | — | — | veuillez |
← 横に動かして読めます →
veuillez は「どうぞ〜してください」という改まった依頼で、手紙やアナウンスで頻出する(Veuillez patienter.=お待ちください)。
否定命令は、ne … pas で動詞をはさむだけである。Ne parle pas !、Ne partons pas !
命令法での代名詞の位置
ここが第9章の例外である。
⚡ 肯定命令と否定命令で位置が入れ替わる
- 肯定命令 代名詞は動詞の後ろ。トレデュニオンで結ぶ。Donne-le !
- 否定命令 代名詞は動詞の前。第9章の語順のまま。Ne le donne pas !
肯定命令には、さらに2つの決まりがある。
| 決まり | 例 |
|---|---|
| me → moi、te → toi になる | Donne-moi le livre./Lève-toi. |
| 2つ重なるときは直接 → 間接の順 | Donne-le-moi.(それを私にくれ) |
この順序は、動詞の前に置くときとは逆である。動詞の前なら Il me le donne.、命令なら Donne-le-moi. となる。並べて覚える。
| 肯定命令 | 否定命令 |
|---|---|
| Donne-le-moi. | Ne me le donne pas. |
| Lève-toi. | Ne te lève pas. |
| Vas-y. | N'y va pas. |
| Prends-en. | N'en prends pas. |
代名動詞
- 📘 代名動詞:主語と同じものを指す代名詞(se)を必ず伴う動詞。辞書には se lever のように se を付けた形で載る。
活用するときは、代名詞も主語に合わせて変える。
| 主語 | se lever(起きる) |
|---|---|
| je | me lève |
| tu | te lèves |
| il / elle / on | se lève |
| nous | nous levons |
| vous | vous levez |
| ils / elles | se lèvent |
否定は、代名詞ごと ne … pas ではさむ。Je ne me lève pas.
不定形のときは、代名詞も主語に合わせる。Je vais me lever.(× Je vais se lever.)
代名動詞の4つの用法
同じ形で意味が4通りある。どれかは文脈で決まる。
| 用法 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 再帰 | 自分自身に対して〜する | Je me lave.(私は自分を洗う=体を洗う) |
| 相互 | たがいに〜する | Ils se téléphonent.(彼らは電話し合う) |
| 受動 | 〜される(ものが主語) | Ce livre se vend bien.(この本はよく売れる) |
| 本質的 | 代名動詞の形でしか使わない | Je me souviens de …(〜を覚えている) |
← 横に動かして読めます →
本質的用法の動詞は、se を外すと別の意味になるか、そもそも存在しない。辞書で se 付きの見出しを引く必要がある。
| 動詞 | 意味 |
|---|---|
| se souvenir de | 〜を覚えている |
| s'en aller | 立ち去る |
| se moquer de | 〜をからかう、気にしない |
| s'apercevoir de | 〜に気づく |
| s'agir de | 〜が問題である(非人称、第8章) |
再帰用法では、体の部分には所有形容詞ではなく定冠詞を使う。
| 正しい形 | 誤りやすい形 |
|---|---|
| Je me lave les mains. | ✕ Je lave mes mains. |
| Il se brosse les dents. | ✕ Il brosse ses dents. |
誰の手かは me が示しているので、所有形容詞を重ねない。これはフランス語らしい発想で、読解でも頻出する。
日常の行動を語る
代名動詞は、一日の行動を語るときの中心になる。まとめて覚えると、そのまま自己紹介や日記に使える。
| 動詞 | 意味 |
|---|---|
| se lever | 起きる |
| se laver | 体を洗う |
| s'habiller | 服を着る |
| se préparer | 支度する |
| se dépêcher | 急ぐ |
| se reposer | 休む |
| se coucher | 寝る |
| s'endormir | 寝入る |
| s'appeler | 〜という名前である |
| s'intéresser à | 〜に興味がある |
| s'occuper de | 〜の世話をする、〜を担当する |
| se mettre à | 〜し始める |
⚠️ 代名動詞でやりがちな間違い
- 代名詞を主語に合わせない。Je vais se lever. は誤りで、Je vais me lever. が正しい。
- 体の部分に所有形容詞を付ける。定冠詞を使う。
- 否定の位置を間違える。代名詞ごとはさむ(Je ne me lève pas.)。
- 命令法で te のままにする。肯定命令では toi になる(Lève-toi.)。
読む・聴く
読み物 — Le matin(朝)
この章までの文法だけで書いた文章である。前半は代名動詞、後半は命令法で書いてある。
| フランス語 | 日本語 |
|---|---|
| Le matin, je me lève à six heures. | 朝、私は6時に起きる。 |
| Je me lave le visage à l'eau froide. | 私は冷たい水で顔を洗う。 |
| Je ne me recouche pas. | 私は二度寝しない。 |
| Je m'habille tout de suite. | 私はすぐに服を着る。 |
| Puis je me prépare un café et je me mets au travail. | それからコーヒーをいれ、仕事に取りかかる。 |
| Si tu veux changer ta vie, commence par ton matin. | 生活を変えたいなら、朝から始めよ。 |
| Lève-toi à la même heure chaque jour. | 毎日同じ時刻に起きよ。 |
| Ne te donne pas le choix. | 自分に選択肢を与えるな。 |
| Prépare tes affaires le soir. | 前の晩に持ち物を用意せよ。 |
| Ainsi, le matin, tu ne penses pas : tu agis. | そうすれば朝、考えずに動ける。 |
語注
| 語 | 品詞・意味 |
|---|---|
| se recoucher | 代名動詞。また寝る |
| tout de suite | 副詞句。すぐに |
| se mettre à | 代名動詞。〜に取りかかる |
| changer | 動詞(第1群)。変える |
| commencer par | 〜から始める |
| choix | 男性名詞。選択、選択肢 |
| affaires | 女性名詞(複数)。持ち物、荷物 |
| ainsi | 副詞。こうして、そうすれば |
| agir | 動詞(第2群)。行動する |
読みどころ
- je me lave le visage の le visage は定冠詞。誰の顔かは me が示している。
- Je ne me recouche pas. は否定で、代名詞ごとはさんでいる。
- je me mets au travail の au は à + le の縮約(第8章)。
- Lève-toi は肯定命令なので te が toi になり、動詞の後ろに回っている。
- Ne te donne pas は否定命令なので te のまま、動詞の前に戻っている。この2文を並べて音読すると、位置の入れ替わりが体に入る。
- commence は -er 動詞の tu の命令法なので s がない。
大学のフランス語で
代名動詞の受動用法は、学術的な文章で主語を立てずに述べるときに使われる。
| フランス語 | 日本語 |
|---|---|
| Ce mot s'emploie rarement. | この語はまれにしか用いられない。 |
| Cette question se pose depuis longtemps. | この問題は以前から提起されている。 |
| Le texte se divise en trois parties. | このテクストは3つの部分に分かれる。 |
「〜される」を受動態(第17章)ではなく代名動詞で言うのは、フランス語の文章で非常に多い。訳すときに「〜される」と補う必要があるので、読解では見落としやすい形である。
⚡ 第10章の通過チェック
- 命令法の3つの形の作り方を言える
- -er 動詞の tu で s が落ちる規則と、s が戻る場合を言える
- être・avoir・savoir の不規則な命令法を言える
- 肯定命令と否定命令で代名詞の位置が入れ替わることを、例で示せる
- Donne-le-moi. と Il me le donne. の語順の違いを説明できる
- 代名動詞の4つの用法を、例つきで言える
- Je me lave les mains. で定冠詞を使う理由を説明できる
次章へ
現在形で言えることはひととおりそろった。次章からは過去に入る。最初に扱う複合過去は、フランス語で過去を語るときの基本形である。
作り方は「助動詞 + 過去分詞(かこぶんし)」だが、助動詞に avoir を使うか être を使うかという選択があり、être を使う場合には過去分詞が主語に一致する。代名動詞はすべて être を使うので、この章の内容が直接効いてくる。