導入|第1章 全体地図 — 授業に追いつくための設計
この章の狙い
要点: この教材は通読するための本ではない。授業中に引く層・毎日回す層・楽しんで読む層の3つでできていて、使い分けを決めておかないとどれも中途半端になる。
フランス語の学習でつまずく原因は、たいていの場合「量が足りない」ではなく「配分が間違っている」ことにある。文法書を最初から読み進めるだけの人は、読んだ内容が授業で出てこない。単語アプリだけを回す人は、文が読めない。逆に読み物だけを楽しむ人は、活用が出てこない。
この章では、何を目標にし、どの層をいつ使い、1日をどう配分するかを決める。ここを決めてから第2章に進むと、あとの19章は「今日はどこを開くか」が毎回はっきりする。
何を目標にするか
「授業についていける」は、そのままでは測れない。測れないものは達成したかどうかも分からないので、段階に置き換える。
- 📘 CEFR:ヨーロッパ言語共通参照枠。言語の運用能力をA1(入門)からC2(熟達)までの6段階で表す物差し。フランス語の教科書や検定はほぼこれに沿っている。
| 段階 | 読む | 聴く | 書く・話す | 大学でいうと |
|---|---|---|---|---|
| A1 | 教科書の短文 | 数字・自己紹介・教室で使うフランス語 | 自己紹介、一日の行動 | 1年次の前半 |
| A2 | 200語程度の説明文 | ゆっくりした会話 | 過去の出来事を語る | 1年次の終わり |
| B1 | 新聞記事、平易な評論 | 学習者向けニュース | 意見を理由つきで述べる | 2〜3年次 |
| B2 | 文学作品の原文、論文の一部 | 通常の速さの講義・討論 | 論証のある小論文 | 卒業論文に着手する段階 |
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卒業までに必要なのはB1からB2の読解力である。話す力はそこまで求められないが、読む力だけを狙って音を捨てると、結局読む速度も上がらない。第2章で発音から始めるのはそのためである。
⚡ 段階ごとの通過チェック
- A1を抜ける条件 名詞に冠詞を付けて言える/現在形の活用が言える/複合過去が作れる
- A2を抜ける条件 複合過去と半過去を使い分けられる/代名詞の語順が言える/辞書を引きながら200語の文章が読める
- B1を抜ける条件 接続法(せつぞくほう)・条件法(じょうけんほう)の使い分けが言える/辞書なしで新聞記事の大意が取れる/自分の意見を10文で書ける
教材の3層 — 引く・回す・読む
この教材は性格の違う3つの層でできている。同じ章の中に3つとも入っているので、章を開いたときにどの層を使うのかを意識する。
| 層 | 中身 | いつ使うか |
|---|---|---|
| A 参照層 | 文法の説明・表・図 | 授業で分からなかったとき、予習のとき。通読しなくてよい |
| B 訓練層 | 4択演習・一問一答 | 毎日。読んで分かることと、出てくることの差を埋める |
| C 教材層 | 各章末の「読む・聴く」 | 週に2〜3回。文法を実際の文の中で見る |
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- 📘 参照層:辞書と同じ使い方をする部分。必要なところだけを引く。
- 📘 訓練層:反復して自動化する部分。理解ではなく、速さと正確さを作る。
- 📘 教材層:実際の文章に触れる部分。理解できた実感が、次の反復を続けさせる。
⚠️ 層の使い方でやりがちな失敗
- 参照層を第1章から通読しようとする。文法書は読み物ではないので、必ず途中で止まる。
- 訓練層を「理解できたから」と飛ばす。理解と自動化は別で、飛ばすと授業中に出てこない。
- 教材層を後回しにする。楽しい部分を全部後ろに置くと、続かなくなる。
大学の授業との対応
この教材の章は、明治大学文学部フランス文学専攻の科目の進度に合わせて並べてある。
| 科目 | 年次 | 扱う範囲 | 対応する章 |
|---|---|---|---|
| フランス語Ⅰ・Ⅱ | 1年 | 発音から始めて初級文法を一周する | 第2章〜第18章 |
| フランス語コミュニケーションⅠ・Ⅱ | 1〜2年 | 挨拶・国籍・好み・描写・依頼 | 第3章〜第10章の会話部分 |
| 基礎フランス語講読 | 1年 | フランス語圏についての平易な文章 | 第3章〜第13章の読む節 |
| フランス語Ⅲ・Ⅳ | 2年 | 初級文法の復習と、時事的な文章の読解 | 第9章〜第18章 |
| 中級・上級フランス語講読 | 2〜4年 | 新聞記事、文学読本 | 第14章〜第19章 |
| フランス文学史・文学演習 | 2〜4年 | 作品の原文 | 第19章・第20章 |
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1年次の春学期と秋学期で、初級文法をひととおり終える。進度は速い。予習が回らなくなるのは能力の問題ではなく、1回の授業で扱う文法項目が多いからである。授業の前に該当する章の「⚡」の箱だけを読んでおくと、説明が耳に入るようになる。
教科書と本教材の対応
授業の教科書は『新システマティックフランス語文法』(倉方秀憲著・早美出版社)。発音・綴り字(つづりじ)から始めて、基礎から中級までを26課で扱う構成である。音声は出版社のサイトから入手できる。
授業の進度と本教材の章の対応は次のとおり。教科書の課の番号は担当の先生によって進め方が少し違うので、ここでは授業で扱う順に並べてある。
春学期に扱う順
| 授業で扱う項目 | 本教材の章 |
|---|---|
| 導入・アルファベ・綴り字の読み方 | 第2章 |
| 名詞の性と数、不定冠詞・定冠詞・部分冠詞、提示表現 | 第3章 |
| 主語人称代名詞、être と avoir | 第4章 |
| 否定文、疑問文の作り方 | 第4章 |
| 第1群規則動詞、形容詞の女性形・複数形 | 第5章・第6章 |
| 指示形容詞、所有形容詞、疑問形容詞 | 第7章 |
| 疑問代名詞、疑問副詞、所有代名詞 | 第7章 |
| aller / venir と前置詞、近接未来・近接過去 | 第5章・第8章 |
| 非人称構文(ひにんしょうこうぶん)と天候表現 | 第8章 |
| 比較級・最上級、第2群規則動詞 | 第6章・第5章 |
| 命令法(否定命令をふくむ) | 第10章 |
| 補語人称代名詞、強勢形(きょうせいけい) | 第9章 |
| 過去分詞(かこぶんし)の作り方、複合過去(avoir・être) | 第11章 |
| 代名動詞(だいめいどうし)とその複合過去、過去分詞の一致 | 第10章・第11章 |
秋学期に扱う順
| 授業で扱う項目 | 本教材の章 |
|---|---|
| 半過去、大過去 | 第12章 |
| 受動態 | 第17章 |
| 関係代名詞(前置詞つきをふくむ) | 第14章 |
| 比較級・最上級の特殊な形、数量の比較 | 第6章 |
| 中性代名詞(ちゅうせいだいめいし)、人称代名詞の語順 | 第9章 |
| 単純未来、前未来 | 第13章 |
| 現在分詞、ジェロンディフ、過去分詞の形容詞的用法 | 第17章 |
| 条件法現在・条件法過去、さまざまな仮定表現 | 第15章 |
| 接続法現在・接続法過去 | 第16章 |
| 指示代名詞 | 第7章 |
| 直説法(ちょくせつほう)単純過去、前過去 | 第19章 |
| 直接話法と間接話法、時制の一致 | 第18章 |
| 知覚動詞と使役動詞 | 第17章 |
| 強調構文、複合疑問代名詞 | 第14章・第7章 |
⚠️ 章の順と授業の順は完全には一致しない
- この教材は同じ種類のものをまとめてある(規則動詞は第5章に全部、比較級は第6章に全部)。授業は教科書の課の順に進むので、前後することがある。
- 授業のほうが先に進んでいる項目があっても、その章の該当する節だけを読めばよい。章の頭から読む必要はない。
- 上の対応表は、授業で出た項目からこの教材を引くための表である。逆に、この教材を進める順は第2章からの番号順でよい。
単純過去は1年次の秋学期に授業で扱う。この教材では文学作品を読むための形として第19章にまとめてあるので、授業で出た時点でそこだけ先に読む。
一日の回し方
1日1〜2時間を使えるなら、次の配分が最も効率がよい。訓練層を毎日、参照層と教材層は必要に応じてという形である。
| 時間 | 内容 | 目的 |
|---|---|---|
| 10分 | 一問一答(前日に「あやふや」にしたカードから) | 昨日の取りこぼしを消す |
| 15分 | 動詞の活用を声に出す | 活用は書くより言うほうが速く定着する |
| 20分 | その週の章の4択演習 | 判断の速さを作る |
| 15分 | 授業の予習(該当する章の⚡と表) | 授業中に説明が耳に入る状態を作る |
| 20分 | 章末の「読む・聴く」 | 文法を実際の文の中で見る |
| (余裕があれば)20分 | 外部の音声素材 | 生の速さに慣れる |
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⚡ 削ってよい日と、削ってはいけない日
- 時間が取れない日は、一問一答10分と活用15分だけにする。この2つが途切れると、他を増やしても戻らない。
- 逆に、4択演習と読む・聴くは、まとめて週末に回してもよい。
4技能をどう回すか
4技能はそれぞれ別の訓練で伸びる。どれか1つを鍛えると他も伸びる、ということは起きない。ただし、伸びやすい順序はある。
| 技能 | この教材での訓練 | 注意 |
|---|---|---|
| Reading | 章末の読む節。原文 → 語注 → 全訳の順に開く | 最初から訳を見ない。訳を読むだけの時間になる |
| Listening | 本文を選択して読み上げ(通常・0.7倍・ディクテ) + 外部の実素材 | 合成音声だけでは生のリズムは身につかない |
| Writing | 和文仏訳と、活用を埋める作文。模範解答とよくある誤りつき | 自動添削はできないので、採点できる形にしてある |
| Speaking | 発音規則(第2章)+ 音読 + 会話の定型表現 | 相手がいなくても音読は成立する。声を出さない学習は音を作らない |
← 横に動かして読めます →
読む力は他の3つより先に伸びる。読めるのに聞き取れないという状態は正常なので、そこで自分の能力を疑わない。音の側は第2章の規則と、日々の音読で追いつく。
苦手を数字で見つける
この教材の問題は、1問ずつ文法の項目で分類してある。演習を進めると、項目ごとの正答率が出る。
- 📘 分野別の成績:問題演習アプリが出す、文法項目ごとの正答率。「なんとなく苦手」を数字に変える。
使い方は単純で、正答率の低い項目が、そのまま読み直すべき章になる。「間違えた問題だけ」を選んで解き直す機能もあるので、全体を周回し直す必要はない。
⚠️ 成績の見方でやりがちな失敗
- 全体の正答率だけを見る。全体が80%でも、接続法だけ30%なら試験では落ちる。
- 苦手な項目を避けて、得意な項目ばかり解く。正答率が上がっても実力は動かない。
道具 — 辞書と参考書
辞書は必ず1冊持つ。単語の意味だけでなく、発音・性・活用・前置詞との組み合わせが載っているので、無料の翻訳サービスでは代わりにならない。
| 種類 | 使う場面 |
|---|---|
| 仏和辞典(学習用) | 日常。発音記号・名詞の性・動詞の型が確認できるもの |
| 活用表・活用辞典 | 動詞の形が分からないとき。多くの仏和辞典に付録がある |
| 仏仏辞典 | 3年次以降。フランス語の定義でフランス語を理解する段階 |
授業で参考書として挙げられているのは次の4冊で、辞書とは別に、文法で迷ったときに引く本である。
| 書名 | 性格 |
|---|---|
| 『これならわかるフランス語文法』(六鹿豊、NHK出版) | 説明がていねいで、最初の1冊に向く |
| 『コレクション・フランス語(3)文法』(田島宏編、白水社) | 初級の文法を体系的に並べたもの |
| 『現代フランス広文典』(目黒士門、白水社) | 網羅的な文法書。3年次以降に効く |
| 『新フランス文法事典』(朝倉季雄、白水社) | 事典。細かい語法の疑問を引く |
無料で使えるものでは、CNRTL(フランス国立の言語資源センターが公開する辞書。語義の歴史まで載る)と、フランスの主要な辞書のオンライン版がある。第20章で使い分けを扱う。
⚡ 第1章の通過チェック
- 3つの層のどれをいつ使うかを言える
- 自分がいまA1・A2・B1のどこにいるかを言える
- 授業で出た文法項目から、この教材の章を引ける
- 1日のうち、絶対に削らない2つを言える
- 苦手な文法を「なんとなく」ではなく正答率で言える
次章へ
配分が決まったら、最初にやることは音である。次章では、書いてあるフランス語を、辞書を引かずに声に出せるところまでを一気に固める。
ここを飛ばして文法に入ると、単語を覚えるときに音の手がかりがないまま綴りだけを覚えることになり、語彙が増えるほど負担が増えていく。逆にここを固めておくと、以後のすべての章で、例文をそのまま音にできるようになる。