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CHAPTER 7 18世紀 読む目安 約5分 / ⚡暗記ボックス 3

18世紀|第7章 ヴォルテール『カンディード』— 楽天主義の反駁

この章の狙い

要点: この作品は論駁(ろんばく)のために書かれている。「この世界は可能な限り最善である」という考えを、理屈ではなく、災厄を次々に起こすことで反証する。

だから読み方も普通の小説とは違う。人物の心理を追っても、筋の必然性を検証しても、何も出てこない。死んだはずの人物が平然と再登場する。それは失敗ではなく、思想を試すための装置である。「この場面は何を論駁しているのか」を毎回問うのが、正しい読み方になる。

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作家 — 生涯と位置

⊳ この節の問題を解く(1問)

  • 📘 ヴォルテール(Voltaire, 1694-1778):本名フランソワ=マリー・アルエ。18世紀で最も広く読まれ、最も戦った作家。悲劇・歴史・書簡・小説とあらゆる形式で書いた。
出来事
1694年 パリの公証人の家に生まれる
1717年 風刺詩によりバスティーユに投獄される
1726〜1729年 イギリスに亡命。議会制と経験論に触れる
1734年 『哲学書簡』。焚書(ふんしょ)処分
1759年 『カンディード』を匿名で刊行
1762〜1765年 カラス事件。冤罪(えんざい)の名誉回復のために闘い、判決を覆させる
1763年 『寛容論』
1778年 パリに戻り、熱狂的に迎えられて死去

書いたことで投獄され、亡命し、それでも書き続けた。カラス事件での介入は、作家が社会に関わるという型を作った。この系譜はゾラ、サルトルへ続く。

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作品の成り立ち

⊳ この節の問題を解く(2問・2枚)

1759年、匿名で刊行された。しかも「ドイツ語からの翻訳」という体裁をとり、架空の訳者名まで付けられている。検閲を避けるための偽装である。

刊行の直接の背景は2つある。

背景 内容
リスボン大地震(1755年) 数万人が死んだ。「この世界が最善なら、なぜこれが起きるのか」という問いが広がった
七年戦争(1756〜1763年) 進行中の戦争。作中の戦闘場面はこれを背景にしている
  • 📘 哲学コント:思想を伝えるために書かれた短い物語。筋や人物の厚みより、考えを試すことが目的である。

批判の対象は、ライプニッツに由来する楽天主義である。「神は可能な世界のうち最善のものを選んだ」という考えを、パングロスという人物に極端な形で語らせて反証する。

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あらすじ

⊳ この節の問題を解く(1問)

結末まで書いてある。原作は30の章に分かれている。

ドイツの小さな城。カンディードは、家庭教師パングロスから「この世界は可能な限り最善である」と教わって育つ。男爵の娘キュネゴンドと口づけしたことで城を追放される。

以後、災厄が続く。軍隊に強制的に入れられて鞭打たれ、戦場を見る。オランダで施しを断られ、梅毒に冒されたパングロスと再会する。

リスボンに着いた日に大地震が起こる。生き残った者たちは、地震を防ぐためと称して宗教裁判にかけられる。パングロスは絞首刑にされ、カンディードは鞭打たれる。

死んだはずのキュネゴンドが生きていた。彼女は複数の男に所有されており、カンディードは彼女と老婆を連れて南米へ渡る。パラグアイで、死んだはずのキュネゴンドの兄と再会し、口論の末に刺してしまう。

さまよううちに、エルドラドに到達する。そこは黄金が石ころのように転がり、争いも聖職者も牢獄もない国である。だがカンディードは、キュネゴンドを取り戻すために去る。

スリナムで、手足を切断された奴隷に出会う。砂糖を作るための代償だと聞かされ、カンディードはここで初めて楽天主義を捨てる。

悲観論者マルタンを連れてヨーロッパへ戻り、詐欺(さぎ)に遭い、ヴェネツィアを経てコンスタンティノープルへ。死んだはずのパングロスとキュネゴンドの兄が、そこで奴隷になっている。買い戻し、醜くなったキュネゴンドと結婚する。

一同は小さな農園に落ち着く。パングロスはなお「すべては最善だった」と論じ続ける。カンディードは答える。「その通りです。しかしわれわれの畑を耕さねばなりません。」

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登場人物

⊳ この節の問題を解く(1問・1枚)

人物 位置
カンディード 主人公。名は「素直な」を意味する。教わったことを信じ、経験によって手放していく
パングロス 家庭教師。何が起きても楽天主義を修正しない
キュネゴンド 男爵の娘。追い求められる対象だが、再会したときには美貌を失っている
マルタン 悲観論者。世界は悪でできていると考える
カカンボ 従者。唯一、実務的に有能な人物
老婆 教皇の娘だったと語る。最も過酷な経歴を持つ

人物は思想の担い手である

  • パングロス=楽天主義マルタン=悲観主義カカンボ=実務
  • カンディードは、どの立場にも完全には与しないまま経験を積む。
  • 人物の心理を深く読もうとすると空振りする。それぞれが1つの考えを代表している。

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主題とモチーフ

⊳ この節の問題を解く(1問・1枚)

この作品の4つの主題

  • 楽天主義の反駁 — 理論ではなく、事実の列挙による。災厄の数と速度そのものが論駁の手段になっている。
  • 制度への批判 — 戦争、宗教裁判、奴隷制、貴族の身分意識。すべて具体的な場面として示される。
  • 理想郷の限界 — エルドラドは完璧だが、カンディードは去る。人は理想郷にとどまれない。
  • 実践への転回 — 結末の「畑を耕す」。抽象的な議論をやめて、手の届く仕事をする。
モチーフ 働き
再会 死んだはずの人物が何度も戻る。因果を無視した反復が、筋の重みを軽くする
速度 章が短く、出来事が次々に起こる。立ち止まる余裕を与えない
身体の損傷 鞭打ち、切断、病。抽象的な議論に対して、身体が反証する

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文体と形式

⊳ この節の問題を解く(1問)

要素 内容
分量 短い。30章で、長編小説の3分の1程度
1章が数ページ。各章に見出しが付いている
語り 三人称。淡々と、感情を交えずに惨事を述べる
効果 語りの冷静さと内容の悲惨さのずれが、皮肉を生む
  • 📘 皮肉(イロニー):言っていることと意図していることがずれている状態。『カンディード』では、語りの平静さがそのまま皮肉になる。

最も残酷な出来事が、最も軽い調子で語られる。この落差が読者に判断を促す。語り手は結論を述べない。

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原文を読む

⊳ この節の問題を解く(1問)

項目 内容
難度 低め。文が短く、語彙も難しくない
分量 短い。通読が現実的な数少ない古典
最初に読む章 第1章(城と教育の場面)。楽天主義の定式がそのまま出てくる
見どころ 宗教裁判の章、奴隷との出会いの章、そして結末の章
授業での扱い 基礎演習で扱われる

18世紀の散文は、19世紀の小説より読みやすい。文が短く、修飾が少ないためである。原文で最初に通読する古典として、この作品は最も適している。

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解釈の分かれ目

⊳ この節の問題を解く(2問・1枚)

論点 読みA 読みB
結末の「畑を耕す」 実践への積極的な転回。行動によって世界を改善する 諦念(ていねん)。世界は変えられないので、手の届く範囲に引きこもる
エルドラド 理想を示す挿話 理想郷が機能しないことの証明。人はそこにとどまれない
キュネゴンドの扱い 追求の対象という装置 女性の身体が繰り返し暴力の対象になる点への批判的読み
楽天主義への態度 全面的な否定 悲観主義(マルタン)も否定されている。どちらでもない立場を探している

← 横に動かして読めます →

結末の解釈が最大の論点である。同じ一句を、正反対の方向に読める。どちらの読みも本文から根拠が出せるため、レポートの主題として扱いやすい。

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レポートの切り口

問いの立て方の例

  • パングロスの台詞を全て抜き出す。災厄のたびに、彼の論法がどう変化する(あるいはしない)かを追う。
  • エルドラドの章で、何が「ない」と書かれているか。否定形で書かれた要素を集めると、批判の対象が浮かぶ。
  • カンディードが「最善」という語を使う回数と位置。信じている段階と手放す段階の境目を特定する。
  • 奴隷の場面(第19章)の文体。ここだけ語りの調子が変わるかどうかを検証する。
  • マルタンの主張は否定されているか。悲観主義がどう扱われているかを、彼の台詞から検討する。

1番目と3番目は、語の数え上げで始められる。短い作品なので、全数調査が現実的にできる点も利点である。

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邦訳と参考文献

種類 内容
邦訳 岩波文庫ほかに収録。訳が複数あり、皮肉の調子の出し方が違う
原文 学習用の注釈つき版が入手しやすい。電子テクストも公開されている
関連 『寛容論』(1763年)。カラス事件への介入を知ると、作家の姿勢が立体的になる
事典 『フランス文学小事典(増補版)』の該当項目

⚠️ この作品で混同しやすい形

  • 普通の小説として読む。筋の必然性や人物の厚みを求めると空振りする。
  • 楽天主義だけが批判されていると考える。悲観主義も同時に相対化されている。
  • 結末を素直な希望と読む。諦念と読む立場もあり、そこが論点である。
  • リスボン地震を作中の創作と考える。1755年に実際に起きた出来事である。

第7章の通過チェック

  • ヴォルテールの経歴の節目を4つ言える
  • 匿名刊行と偽装の内容を言える
  • 刊行の背景となった2つの出来事を言える
  • 主要人物5人と、それぞれが代表する立場を言える
  • 4つの主題を言え、エルドラドの位置づけを説明できる
  • 語りの調子と内容のずれが何を生むかを言える
  • 結末をめぐる2つの読みを、それぞれ根拠つきで言える

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次章へ

次章はルソー『告白』である。同じ18世紀だが、性格はまったく違う。

『カンディード』が思想を試すために人物を動かしたのに対し、『告白』は自分自身をそのまま差し出す。主人公は作者本人であり、恥ずべき行為も隠さないと宣言される。近代の自伝は、ここから始まる。

読了の記録はこの端末の中だけに残ります。

📗 読み終えたら、この章の問題で理解を確かめましょう。

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