実践|第20章 卒論で理論を使う
この章の狙い
要点: 枠組みをどう選び、どう書き、どこで失敗するか。
07の領域が扱った論の立て方の上に、この教材の内容をどう載せるか。具体的な手順と、実際によく起きる失敗を並べる。
枠組みを選ぶ手順
⚡ 5段階
- 1. 作品を読み、引っかかりを記録する(07の領域)。まだ枠組みは考えない。
- 2. 引っかかりを疑問文にする。問いを1行にする。
- 3. 問いの種類を判定する。語りの問題か、社会の問題か、読者の問題か(第1章の対応表)。
- 4. その種類を扱える枠組みを、早見表から選ぶ。
- 5. 選んだ枠組みの入門書を1冊読み、術語を3つに絞る。
⚠️ 順序を逆にしない
- 枠組みを先に決めて作品を探すと、結論が最初から決まる(第1章)。
- 「◯◯理論で卒論を書きたい」という発想は、この点で危うい。
- 「この作品のこの箇所が説明できない」から始める。
序論に書くこと
07の領域の序論の4要素に、枠組みの説明を加える。
⚡ 6文の型
- 1. 対象を示す。作品と版(07の領域)。
- 2. 問いを示す。
- 3. 先行研究の中での位置。
- 4. 用いる枠組みを1つ挙げ、誰の定義かを示す。
- 5. 範囲を限定する。「本稿は、この枠組みを〜の分析にのみ用いる。」
- 6. 扱えないことを明示する。「〜については、本稿では扱えない。」
5と6が、批判への先回りになる(第18章)。各1文で足りる。
本論の組み立て
⚡ 推奨する形
- 第1章 前提の確認。版・作品の成立事情・術語の定義。
- 第2章 記述。数えられる形で、テクストの事実を確定する。枠組みの適用はまだしない。
- 第3章 分析。枠組みを当て、記述の意味を論じる。
- 第4章 総合。問いに答える。
- この形なら、第2章が誰にでも検証できる土台になる。
⚠️ よくある崩れ方
- 第1章が理論の紹介で埋まる。入門書の要約は要らない。必要な術語の定義だけでよい。
- 記述と分析が混ざる。「〜が◯回現れる、これは〜を意味する」を同じ段落に書くと、記述が検証できなくなる。
- 作品の引用が少ない。枠組みの説明が長く、テクストが薄い(第18章の批判)。
よくある失敗と直し方
| 失敗 | 直し方 |
|---|---|
| 術語を定義せずに使う | 最初に定義する。誰の定義かを示す |
| 枠組みを3つ以上使う | 主1つ、補助1つまで(第1章) |
| 「この作品は◯◯である」で終える | どの箇所の、どういう仕組みでそうなのかを書く |
| 結論が枠組みから予測できる | 予想を裏切る箇所を探す(第1章) |
| 理論に合わない部分を無視する | 合わない部分を書く。それが作品固有のものにあたる |
| 作者の意図を推定する | テクストの記述にとどめる(第2章・第7章) |
| 数を示さない | 総数と分布を示す(07の領域) |
| 版を明記しない | 最初の注で示す(07の領域) |
分量の配分
2万字の卒論で、枠組みを使う場合の目安。
| 部分 | 字数 | 内容 |
|---|---|---|
| 序論 | 2,000 | 6文の型を展開する |
| 前提の確認 | 2,500 | 版・成立事情・術語の定義 |
| 記述 | 5,500 | 数えた結果、表、引用 |
| 分析 | 5,500 | 枠組みの適用 |
| 総合 | 2,500 | 問いへの答え |
| 結論 | 2,000 | まとめ・限界・今後 |
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⚡ 記述と分析を同じ分量にする
- 記述が薄いと、分析が浮く。
- 分析が薄いと、資料の整理で終わる。
- 半々を目安にすると、両方が支え合う。
口頭試問で問われること
⚡ 想定される5つの質問
- なぜこの枠組みを選んだのか。他の枠組みでは何が説明できないのか。
- この枠組みの限界は何か。(第18章の批判に答える)
- 数えた基準は何か。何を数え、何を数えなかったか。
- 理論に合わない箇所はなかったか。
- 版はなぜこれを使ったのか。(07の領域)
⚡ 答え方
- 1つ目と2つ目は、序論の5・6文目がそのまま答えになる。
- 3つ目は、本論の記述の章に書いてある。
- 4つ目は、書いてあれば強い。書いていなければ「そこは扱えていない」と正直に言う(07の領域)。
この教材を終えて
20章で扱ったのは、すべて道具である。
⚡ 最後に残る3つ
- 問いが先、枠組みが後。
- 記述を先に固め、そのあとで意味づける。
- どの枠組みも、何かを見えなくする。それを明示することが誠実さになる。
⚡ 他の領域とのつなぎ方
| 知りたいこと | 開く領域 |
|---|---|
| 問いの立て方・引用と注・精読の手順 | 文学研究の方法(07) |
| 概念の中身と、その履歴 | 思想・哲学(04) |
| その時代に何が起きていたか | フランス史(03) |
| その時代にどんな作品が書かれたか | フランス文学史(02) |
| 個々の作品の中身 | 作品と作家(10) |
| どの枠組みで読むか | この教材(08) |
「理論を使わない読み」というものはない(第18章)。使っていることに気づいていないだけである。気づき、明示し、限定して使うこと——それがこの教材の結論にあたる。
⚠️ この章で混同しやすい形
- 枠組みを先に決めてから作品を探す。順序が逆である。
- 序論で理論の紹介をする。必要な術語の定義だけでよい。
- 記述と分析を混ぜる。記述が検証できなくなる。
- 理論に合わない部分を書かない。そこが作品固有のものにあたる。
提出前チェック
07の領域のチェックリストに、この教材の分を加える。
⚡ 枠組みについての7項目
- 用いる枠組みを1つに絞り、序論で明示したか
- 誰の定義かを示したか
- 範囲の限定と、扱えないことを1文ずつ書いたか(第18章)
- 術語を3つ以内に抑えたか
- 記述の章と分析の章を分けたか
- 数えた基準を書いたか(07の領域)
- 理論に合わない箇所を書いたか
⚡ 07の領域と合わせて
- 序論の問いと結論の答えが対応しているか
- 引用がすべて原文と一致しているか
- 注に出た文献が参考文献一覧にあるか
- 版を明記したか
参考文献をどう選ぶか
⚡ 枠組みを使うときの構成
- 理論の原典 — 1〜2点でよい。該当する概念の箇所だけ。
- 入門書 — 1点。位置づけのため。
- その枠組みで書かれた実際の分析 — 2〜3点。最も重要にあたる。当て方が学べる。
- 作品についての先行研究 — 5〜10点。枠組みとは別に必要(07の領域)。
- 一次資料 — 使った版(07の領域)。
⚠️ やりがちな失敗
- 理論の原典と入門書ばかりで、作品の先行研究が薄い。
- 枠組みを使った分析の実例を読んでいない。定義だけでは当て方は分からない(第1章)。
- 孫引き(07の領域)。理論の概念を、入門書からの引用で済ませる。
⚡ 配分の目安
- 理論に関する文献が、参考文献全体の3分の1を超えたら多すぎる。
- 卒論は作品についての論文であって、理論についての論文ではない。
⚡ 第20章の通過チェック
- 枠組みを選ぶ5段階を言え、順序を逆にしない理由を言える
- 序論の6文の型を言い、どの2文が批判への先回りかを言える
- 本論の4章構成を言い、第2章が果たす役割を言える
- よくある失敗を6つ挙げ、直し方を言える
- 記述と分析を同じ分量にする理由を言える
- 口頭試問で想定される質問を5つ言える
- この教材の結論となる3つを言える