近世|第6章 18世紀 — ロココ、サロン、美術批評の誕生
この章の狙い
要点: 18世紀の要点は2つである。展覧会が公衆に開かれたことと、美術批評が生まれたことにあたる。
そして様式の面では、ロココから新古典主義への転換が起きる。軽やかで私的な絵から、厳格で公的な絵へ。この転換が、革命の前夜に起きている(03の領域)。
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1715年 | ルイ14世の死。宮廷の絶対的な中心が緩む(03の領域) |
| 1717年 | ヴァトーがアカデミーに迎えられる。新しい主題の区分が作られる |
| 1737年 | サロンが定期的に開かれるようになる(ほぼ隔年) |
| 1740年代〜 | ロココの装飾と絵画が広がる |
| 1750年代 | サロンについての批評が書かれ、読まれる |
| 1759年〜 | ディドロがサロン評を書き始める |
| 1760年代 | 古代への回帰が強まる。遺跡の発掘の影響 |
| 1784年 | ダヴィッドの歴史画が発表される。新古典主義の代表とされる |
| 1789年 | 革命(03の領域) |
| 1793年 | ルーヴルが公開の美術館になる |
ロココ
- 📘 ロココ:18世紀前半に広まった様式。曲線、軽やかな色、非対称の装飾を特徴とする。建築の内部装飾から始まった。
⚡ 特徴
- 主題 — 神話と歴史から、恋愛・遊び・田園へ移る。
- 色彩 — 明るく、淡い。素描より色彩が前に出る(第4章の論争の帰結)。
- 画面 — 曲線が多く、対角線の構図。中心が定まらない。
- 大きさ — 大画面より、部屋を飾る中小の作品が増える。
- 場 — 宮廷から、都市の邸宅へ。私的な空間の装飾になる。
⚡ なぜこの変化が起きたか
- 注文主が変わった。王だけでなく、都市の富裕層が買うようになる(03の領域)。
- 飾る場所が変わった。大広間ではなく、小さな部屋。
- 社交の形が変わった。サロン(社交の集まり)での会話が価値になる(03・04の領域)。
- したがって、様式の変化は制度と場の変化と結びついている(08の領域)。
⚠️ 「ロココ」という語
- 後の時代に付けられた名で、当初は否定的な含みを持っていた(第1章)。
- 19世紀に、軽薄な様式として批判された。
- 現在は、その軽やかさ自体が評価されている。評価は時代とともに動く。
サロンという展覧会
- 📘 サロン:アカデミーが開いた公開の展覧会のこと。ルーヴルの一室(方形の間)で開かれたことから、この名で呼ばれる。
⚡ なぜ重要か
- 1737年以降、ほぼ隔年で定期的に開かれた。
- 入場は無料で、幅広い層が訪れた。
- 壁一面に、床から天井まで作品が掛けられた。位置が評価を左右する。
- 目録(もくろく)が売られ、作品に番号が付いた。
- したがって「公衆が芸術を見て論じる場」が成立した(03の領域の世論)。
⚠️ 社交の集まりのサロンと混同しない
- 同じ語だが、別のものである。
- 展覧会のサロン — アカデミーが開く公開の展覧会。
- 社交のサロン — 邸宅で開かれる文学と会話の集まり(03の領域)。
- この教材で「サロン」とあるのは、原則として展覧会のほうにあたる。
美術批評の誕生
⚡ 何が新しかったか
- 展覧会があって初めて、共通の対象について論じられる。
- 読者は、その作品を見た人と、見ていない人の両方。
- したがって、作品を言葉で記述する必要が生じた。
- 記述と判断を分けて書くという形式が作られていく(07・08の領域)。
⚡ ディドロのサロン評
- 1759年から、展覧会ごとに批評を書いた(04の領域)。
- 作品の前に立って見たままを書き、そこから判断へ進むという形を取った。
- 絵の中に入り込んで語るような書き方も用いた。
- 手書きで少数の読者に配られた。当時の一般の読者には届いていない。
- したがって「美術批評の誕生」を、公開の批評の誕生と混同しない。
新古典主義
- 📘 新古典主義:18世紀後半に強まった、古代を範として厳格な形式に戻る方向のこと。
⚡ ロココとの対比
| ロココ | 新古典主義 | |
|---|---|---|
| 主題 | 恋愛・遊び・田園 | 歴史・美徳・犠牲 |
| 色彩 | 明るく淡い | 抑えられ、輪郭が明確 |
| 構図 | 曲線・対角線 | 水平と垂直・左右対称 |
| 場 | 私的な部屋 | 公的な空間 |
| 価値 | 快さ | 道徳と公共 |
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⚡ なぜ転換したか
- 遺跡の発掘により、古代の実物が知られるようになった。
- 理論の側から、ロココを軽薄と批判する声が強まった。
- 公共の徳を重んじる議論が広がっていた(04の領域)。
- したがってこの転換は、政治的な意味を帯びる。革命期に、この様式が公式の様式になる(03の領域)。
制度と条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 注文主 | 王・貴族に加え、都市の富裕層 |
| 場 | 邸宅の装飾、そして公開の展覧会 |
| 評価 | アカデミーの序列に加え、批評と公衆の反応 |
| 流通 | 版画による複製が広がる |
| 転換 | 1793年、ルーヴルが公開の美術館になる(03の領域) |
文学とのつながり
⚡ 18世紀の作品を読むときに要る背景
- 批評という営み — 芸術について公の場で論じる形式が、この時期に確立する。文芸批評もこの流れにある(08の領域)。
- 公衆という存在 — 展覧会の観客と、書物の読者は重なる(03の領域の世論)。
- 感受性 — 涙を流すこと、感動を表に出すことが価値になる。絵画でも小説でも同時期に起きている。
- ディドロ — 同じ人物が、哲学・小説・美術批評を書いている(04の領域)。分野の区切りが現在ほど強くない。
⚠️ この時代で混同しやすい形
- 展覧会のサロンと、社交のサロンを混同する。同じ語だが別のものにあたる。
- ロココを宮廷の様式とだけ考える。都市の邸宅の装飾として広がった。
- ディドロのサロン評が広く読まれたと考える。手書きで少数の読者に配られた。
- 新古典主義を様式の問題とだけ考える。公共の徳という価値と結びついており、政治的な意味を帯びる。
サロン展の実際
⚡ どういう展示だったか
- 壁一面に、床近くから天井まで作品が並べられた。
- 高い位置に掛けられると、ほとんど見えない。掛けられる位置が評価そのものになる。
- 入場は無料の日があり、多くの人が訪れた。
- 会期は限られている。その期間に評判が決まる。
⚡ なぜ重要か
- ここに出せないことは、事実上、発表の場がないことを意味した。
- 審査に落ちることは、経歴に響く。
- 19世紀に、落選した作品を集めた展示が行われる(第8章)。制度への異議申し立てにあたる。
- 文学の雑誌・出版社と、同じ位置にある(08の領域の場)。
版画による流通
⚡ 作品はどう知られたか
- 展覧会を見られる人は限られる。
- 版画に複製されて広まる。白黒で、寸法も違う。
- 雑誌の挿絵として図像が流通する。
- したがって、当時の人が知っていた作品の姿は、原作と違うことが多い。
⚠️ これが研究上の論点になる
- 文学作品の中の絵画への言及が、原作を見た結果とは限らない(第19章の型1)。
- 版画で見ていた可能性がある。
- どこで見たのかを確かめられる場合は、確かめる。書簡や日記に記録が残っていることがある。
⚡ 第6章の通過チェック
- ロココの特徴を5つ言える
- ロココへの変化が制度と場の変化と結びつくことを説明できる
- 展覧会のサロンがなぜ重要かを4つ言える
- 2つの「サロン」の違いを言える
- 美術批評が生まれた条件を3つ言える
- ディドロのサロン評の書き方と、流通の限界を言える
- ロココと新古典主義を5つの面から対比できる
次章へ
次章から19世紀に入る。まずロマン主義の絵画である。
新古典主義の厳格さに対して、動きと色彩と激情が前に出る。そして同時代の事件を大画面で描くという試みが現れる。歴史画の主題が、古代から現在へ移る——この転換が、写実主義への道を開く。