近世|第5章 劇場という場 — 17〜18世紀の上演
この章の狙い
要点: 上演の条件が、作品の形を決める。
建物の形、照明、装置、観客席の配置、そして観客の振る舞い。17世紀の悲劇と喜劇は、現在とはまったく違う条件で上演されていた。その条件を知ると、戯曲の読み方が変わる。
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 16世紀後半 | パリの常設の劇場が使われ始める |
| 1630年代 | 室内の劇場での上演が定着する |
| 1640年代 | 舞台装置を用いた見世物的な劇が流行する |
| 1660年代 | モリエールの一座が王の保護を受ける |
| 1680年 | コメディ・フランセーズが設立される |
| 17世紀を通じて | 舞台の上に観客が座っていた |
| 1759年 | 舞台上の観客席が廃止される |
| 18世紀 | 劇場の建物が大型化する。新しいジャンルが現れる |
建物と舞台
⚡ 17世紀の劇場の条件
- 細長い建物。もとは球技場を転用した例が多い。
- 平土間(ひらどま)は立ち見。最も安く、最も騒がしい。
- 側面と上階に桟敷(さじき)席。高価で、身分の高い観客が座る。
- 舞台の上にも観客の席があった。役者のすぐ横に、金を払った客が座る。
- 照明は蝋燭(ろうそく)。客席も明るいまま。暗転はできない。
⚡ この条件が作品に与えたもの
- 舞台が狭い。舞台上に観客がいるので、大人数の動きが取りにくい。
- 暗くできない。場面の切り替えを、言葉で示す必要がある。
- 観客が見えている。役者と観客の距離が近く、反応が直接返ってくる。
- したがって、台詞(せりふ)が場面と時間を説明する役割を持つ。
⚠️ 三単一の規則との関係
- 時・場所・筋の3つを1つにするという規則(02の領域)は、しばしば理論の問題として説明される。
- しかし上演の条件からも説明できる。装置を変えにくく、暗転もできないなら、場所を変えないほうが上演しやすい。
- 理論と条件の両方から見ると、規則の意味が具体的になる。
装置と機械
⚡ 2つの方向
- 悲劇 — 装置は簡素。宮殿の広間のような、変わらない場所が選ばれる。
- 機械仕掛けの劇 — 装置を大きく動かし、飛行や変身を見せる。別系統の人気を持った。
- 後者は費用がかかる。王や大貴族の祝祭で上演された(03の領域)。
- 音楽と踊りを伴う。のちの歌劇(かげき)につながる(第11章)。
観客
| 席 | 誰が | 振る舞い |
|---|---|---|
| 平土間 | 幅広い層。立ち見 | 声を上げ、動き回る。上演を左右した |
| 桟敷 | 貴族・富裕層 | 社交の場でもある |
| 舞台上 | 金を払った特権的な客 | 役者の演技の邪魔になることもあった |
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⚡ 観客の力
- 初日の反応で、上演の継続が決まった。
- 上演の成否が、作家の収入を左右する(03の領域)。
- 論争が起きると、劇場の外でも小冊子で争われた。
- したがって作品は、この観客を意識して書かれている(08の領域の受容)。
検閲と統制
⚠️ 上演には許可が要った
- 宗教的・政治的に問題があると判断されれば、上演が禁じられた(03の領域)。
- 禁止と改訂を経て世に出た作品がある。
- したがって残っている本文は、書きたかった形とは限らない(07の領域の版の問題)。
- 一座の数と上演できる場所も制限されていた。
18世紀の変化
⚡ 何が変わったか
- 1759年、舞台上の観客席が廃止される。舞台が広く使えるようになる。
- 劇場の建物が大型化する。より多くの観客を収容する。
- 装置と照明が発達する。場面の変化を視覚で示せるようになる。
- 新しいジャンルが現れる。悲劇と喜劇の中間にあたる、市民の生活を扱う劇。
- 観客層が広がる。演劇が都市の娯楽として定着する(03の領域)。
⚡ 形式への影響
- 暗転と場面転換ができるようになると、三単一の規則の必要が減る。
- 19世紀のロマン主義の演劇が、この規則を正面から破る(02の領域)。
- つまり、規則の崩壊には技術的な条件も関わっている。
文学とのつながり
⚡ 戯曲を読むときに要る背景
- ト書きを飛ばさない。当時の装置と照明の条件で、何が可能だったかを考える(10の領域)。
- 場面の説明が台詞に含まれていることに注意する。「ここは〜である」と人物が言う理由が、条件の側にある。
- 観客の存在を前提に読む。傍白(ぼうはく)や独白は、観客に向けられている。
- 上演の記録を探す。初演の年、劇場、反応(07の領域)。
- 戯曲は上演されて完成する(10の領域)。読むだけでは半分しか分からない。
⚠️ この時代で混同しやすい形
- 17世紀の劇場を、現在のような暗い客席の劇場と考える。蝋燭の照明で、客席も明るいままだった。
- 舞台上に観客がいたことを例外的と考える。17世紀を通じて常態であり、1759年まで続いた。
- 三単一の規則を理論だけの問題と考える。上演の条件からも説明できる。
- 機械仕掛けの劇を、悲劇の一部と考える。別系統の人気を持つ形式にあたる。
観客という条件
⚡ 17〜18世紀の観客席
- 平土間(ひらどま)は立ち見であり、身分の低い観客が入った。声を出し、動き回る。
- 桟敷(さじき)は高価で、貴族と富裕層が座る。
- 舞台の上にも座席があった時期がある。貴族が舞台の脇に座り、上演を妨げた。
- 上演は静かに見るものではなかった。現在の劇場の作法とは違う。
⚡ 作品への影響
- 観客の反応が、その場で作品を左右する。
- 有名な台詞には、聞かせるための間が置かれる。
- 上演の失敗が、その作品の評価を長く決めることがあった。
- したがって初演の記録は、作品研究の資料にあたる(10・07の領域)。
検閲と許可
⚡ 上演には許可が要った
- 上演できる劇場が限られていた時期がある。特権を与えられた劇団だけが正規の上演を行えた。
- 台本は事前に検閲を受けた。
- 政治と宗教に触れる主題が制限される。
- そのため、寓意(ぐうい)や遠い国の設定を使って、批判を間接的に行う方法が発達した。
⚠️ 検閲を「作品を損なうもの」とだけ考えない
- 制限が、表現の形を作った側面がある。
- 何が削られたかが分かれば、当時何が問題とされたかが分かる(03の領域)。
- 検閲の記録は資料にあたる(07の領域)。
⚡ 第5章の通過チェック
- 17世紀の劇場の条件を5つ言える
- その条件が作品に与えたものを4つ言える
- 三単一の規則を、上演の条件の面から説明できる
- 装置の2つの方向を言える
- 3つの席と、それぞれの観客の振る舞いを言える
- 1759年に何が変わったかを言える
- 技術的な条件が規則の崩壊に関わることを説明できる
次章へ
次章は18世紀である。展覧会が定期的に開かれ、美術批評が生まれる。
サロン(展覧会)が公衆に開かれ、そこに書かれた批評が読まれる。芸術について公の場で論じるという営みが、ここで始まる。そしてロココから新古典主義への転換が、革命の前夜に起きる。