近世|第4章 17世紀 — 古典主義とヴェルサイユ
この章の狙い
要点: 17世紀に、規則が制度になる。
王立のアカデミーが設立され、何が正しい絵画かを定めた。そしてヴェルサイユが作られる。建築・庭園・絵画・彫刻・音楽・演劇が、1つの目的のために組織された例にあたる。文学もその中にあった(02・03の領域)。
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1635年 | アカデミー・フランセーズ(言語)の設立(04の領域) |
| 1648年 | 王立絵画彫刻アカデミーの設立 |
| 1660年代 | ルーヴル宮の東側の列柱が造られる |
| 1661年 | ルイ14世の親政が始まる(03の領域) |
| 1661年〜 | ヴェルサイユの造営が本格化する |
| 1663年〜 | 王の建造物を統括する体制が整えられる |
| 1666年 | ローマにフランスのアカデミーが置かれる |
| 1667年 | アカデミーの展覧会が始まる(不定期) |
| 1671年 | 建築アカデミーの設立 |
| 1682年 | 宮廷がヴェルサイユに移る |
| 1680年代 | 色彩と素描(そびょう)をめぐる論争 |
アカデミーという制度
- 📘 王立絵画彫刻アカデミー:1648年に設立された組織。画家と彫刻家を、職人の同業組合から切り離し、学問に近い地位に置いた。
⚡ 何をしたか
- 教育。素描の訓練を体系化した。
- 規範の設定。何が優れた絵画かの基準を定めた。
- 序列の設定。下の表の主題の序列を制度化した。
- 展覧会。会員の作品を公開する場を作った。
- 議論。定期的な講演で、作品を分析し規則を言葉にした。
| 序列 | 主題 |
|---|---|
| 1 | 歴史画(宗教・神話・歴史の場面)。最も高い |
| 2 | 肖像画 |
| 3 | 風俗画(日常の場面) |
| 4 | 風景画 |
| 5 | 静物画。最も低い |
⚡ 序列の理由
- 歴史画は、複数の人物を配し、物語を構成し、教養を要するとされた。
- 静物画は、対象を写すだけと見なされた。
- つまり「考えること」を含む主題が上に置かれた。
- この序列が19世紀に崩れる(第8章・第9章)。崩れる過程が、そのまま近代美術の歴史になる。
古典主義の絵画
⚡ 特徴
- 明晰な構図。画面が幾何学的に整理される。
- 素描の重視。輪郭が明確で、形が先にある。
- 理想化。現実そのままではなく、あるべき形に整える。
- 古代を範とする。主題も、人物の姿勢も。
- 感情の抑制。激しい動きより、静かな均衡。
- 📘 プッサン(1594-1665):主にローマで活動した画家。構図の厳密さと主題の知的な扱いで、フランス古典主義の規範とされた。
- 📘 クロード・ロラン(1600-1682):光を主題にした風景画で知られる。理想化された風景の中に、小さく人物が配される。
⚠️ 2人ともイタリアで活動した
- フランス古典主義の規範とされたが、活動の場はローマにあった。
- ローマのフランス・アカデミーが設けられ、若い画家が留学した。
- 「フランス的」とされるものが、実は国境を越えた交流の産物である例にあたる(08の領域)。
色彩と素描の論争
1680年代、アカデミーの中で論争が起きた。
| 立場 | 主張 |
|---|---|
| 素描を重んじる側 | 形が先。素描は理性に属し、絵画の骨格を作る |
| 色彩を重んじる側 | 色が先。色彩こそ絵画に固有のもので、目に訴える |
⚡ なぜ重要か
- 理性と感覚のどちらを上に置くかという争いにあたる(04の領域)。
- 文学の側の論争と同時期である。古代と近代のどちらが優れているかをめぐる論争が並行して起きた(02の領域)。
- 18世紀に、色彩の側が優勢になる(第6章)。
- この対立は19世紀にも形を変えて反復される(第7章)。
ヴェルサイユ
⚡ 総合的な事業だった
- 建築 — 増改築を重ね、巨大化した。
- 庭園 — 幾何学的に設計された。自然を規則に従わせるという発想にあたる。
- 絵画と彫刻 — 王を讃える主題が組織的に作られた。
- 音楽と演劇 — 祝祭のために作曲され、上演された。
- 儀礼 — 起床から就寝まで、日課そのものが演出された(03の領域)。
⚡ 文学との関係
- 悲劇と喜劇が、この場で上演された(第5章)。
- 作家が年金と職を得るには、この宮廷との関係が要る(03の領域)。
- したがって17世紀の文学を、宮廷から独立した表現として読まない。
- 同時に、内部からの観察が生まれる。モラリストの人間観は、この場での観察に基づく(04の領域)。
制度と条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 注文主 | 王と国家。教会と大貴族も |
| 作り手 | アカデミー会員。地位が制度で保証される |
| 場 | 宮廷・教会・アカデミーの展覧会 |
| 規範 | アカデミーが定める。逸脱は評価されない |
| 目的 | 王権の可視化が大きな部分を占める |
文学とのつながり
⚡ 17世紀の作品を読むときに要る背景
- 規則という考え方 — 悲劇の三単一(さんたんいつ)の規則と、絵画の規範は、同じ「規則に従うことが優れている」という価値を共有する。
- 主題の序列 — 文学にもジャンルの序列がある。悲劇が上、喜劇が下(08の領域)。同じ構造にあたる。
- 明晰さ — 言語の明晰さ(04の領域)と、構図の明晰さが対応する。
- アカデミーという形 — 言語のアカデミー(1635年)と美術のアカデミー(1648年)が、同じ発想で作られている。
⚠️ この時代で混同しやすい形
- アカデミーを学校とだけ考える。規範の設定と展覧会の運営を含む制度にあたる。
- 主題の序列で静物画が低い理由を、技術の問題と考える。「考えること」を含むかどうかで序列が決まっていた。
- プッサンをフランスで活動した画家と考える。主にローマにいた。
- 色彩と素描の論争を技法の議論と考える。理性と感覚のどちらを上に置くかという争いである。
アカデミーが決めたこと
- 📘 アカデミー:国家が公認した、芸術家の団体と教育の機関のこと。17世紀に整備され、19世紀まで芸術の中心にあった。
⚡ アカデミーが決めたこと
- 誰が正式な芸術家か。会員であることが資格になる。
- 何を教えるか。素描(そびょう)を基礎とし、古代の作品を手本にする。
- どの主題が高いか。歴史画を最上位とし、肖像・風景・静物・日常の場面を下に置く序列があった。
- どこで発表するか。公式の展覧会が、事実上唯一の発表の場になる(第6章)。
⚠️ この序列が、後の対立の原因になる
- 19世紀の写実主義と印象派は、この序列に反する主題を選んだ(第8章・第9章)。
- 序列を知らないと、なぜそれが挑発だったのかが分からない。
- 文学のアカデミーと、構図が同じにあたる(08の領域の正典)。
庭園という形式
⚡ 17世紀の庭園
- 左右対称。中心の軸を通し、その両側を対応させる。
- 見通しを作る。一点から全体が見えるように設計される。
- 自然を幾何学の形に整える。木も水も、直線と円で構成される。
- 建物と庭が、1つの計画として作られる。
⚡ 何を意味していたか
- 自然を秩序に従わせるという主張にあたる。
- 一点から全体が見えることは、統治の比喩として読める。
- 18世紀に、これと正反対の庭園が流行する(第6章)。不規則で、自然に見えるように作られた庭。
- その転換は、感受性の変化と対応している(04の領域)。
⚡ 第4章の通過チェック
- アカデミーがしたことを5つ言える
- 主題の序列を5段階で言い、その理由を説明できる
- 古典主義の絵画の特徴を5つ言える
- プッサンとクロード・ロランの活動の場を言える
- 色彩と素描の論争の対立点と、その意味を言える
- ヴェルサイユが総合的な事業だったことを5つの面から言える
- 美術のアカデミーと言語のアカデミーの共通点を言える
次章へ
次章は劇場という場である。上演の条件が、作品の形を決める。
建物の形、照明、装置、観客席の配置、そして観客の振る舞い。17世紀の悲劇と喜劇は、現在とはまったく違う条件で上演されていた。その条件を知ると、戯曲の読み方が変わる。