実践|第20章 調べ方と使い方
この章の狙い
要点: この教材を閉じたあとに、自分で進めるための手順を並べる。
図版をどこで探すか。美術館の情報をどう使うか。用語をどう調べるか。そして卒論で芸術を扱うときの注意にあたる。
図版を探す
| 場所 | 内容 |
|---|---|
| 美術館の公開画像 | 主要な美術館が、所蔵作品の画像を公開している。作品情報も付く |
| 国立の電子図書館 | 版画・写真・挿絵・雑誌の図版が大量にある(07の領域) |
| 画集と展覧会図録(ずろく) | 図録は情報量が多い。図書館にある |
| 美術史の事典 | 図版つきで、様式と作家が引ける |
⚡ 確かめること
- 作品名・制作年・技法・寸法・所蔵先。この5つを記録する。
- 寸法は重要にあたる。画集では、大画面も小品も同じ大きさで印刷される。
- 色は印刷と画面で変わる。断定的な色の記述は避ける。
- 状態。修復を経ている場合がある(第12章)。
⚠️ レポートに図版を載せるとき
- 著作権を確かめる。20世紀の作品は存続しているものが多い(第1章)。
- 出典を必ず示す(07の領域)。作品情報と、画像の出所。
- 載せられないなら、言葉で記述する。記述する力そのものが分析になる。
美術館の情報を使う
⚡ 公開されているもの
- 所蔵品の目録。何を持っているかが分かる。
- 来歴(らいれき)。誰が所有し、いつ美術館に入ったか。受容史の資料にあたる(08の領域)。
- 展覧会の記録。いつ、どこで展示されたか。
- 修復の記録。手が入っている場合がある。
⚡ 来歴が使える理由
- その作品がいつ評価されたかが分かる。
- 誰が買ったかで、当時の市場の様子が分かる(第9章)。
- 国家がいつ購入したかは、公的な評価の指標になる。
- これは08の領域の正典の分析にあたる。
用語を調べる
| 順 | 使うもの |
|---|---|
| 1 | 美術・音楽の事典。用語と様式が引ける |
| 2 | この教材の早見表。時代との対応を確かめる |
| 3 | 概説書。その様式の位置が分かる |
| 4 | 専門の研究。論点が分かる |
⚠️ 注意
- 訳語が複数ある。1つに決めて最初に断る(07の領域)。
- 様式名は後から付けられたものが多い(第1章)。「◯◯様式である」と断定しない。
- 年代は幅がある。「1870年代」のように幅で書く。
- 人名の表記を統一する(07の領域)。
卒論で芸術を扱うとき
⚡ やってよいこと
- 作品に出てくる芸術への言及を、全部拾って一覧にする(第19章の型1)。
- 描写の語彙を数える。色と光の語がどれだけあるか(07・08の領域)。
- 芸術の場面を、社会的な位置の記述として分析する(第19章の型3)。
- 同じ制度の中にあることを、史料で示す(第19章の型4)。
- 作家が書いた美術批評や音楽についての文章を、資料として使う(07の領域)。
⚠️ やらないほうがよいこと
- 形式の並行だけを主張の中心にする(第19章の型5)。
- 図版を並べて、印象で比べる。
- 芸術史の説明で紙幅を埋める。必要な部分だけにする。
- 専門的な様式論に踏み込む。文学専攻に求められているのは、位置と関係にあたる。
章の分量の目安
2万字の卒論で、芸術を扱う場合。
| 部分 | 字数 | 内容 |
|---|---|---|
| 前提の確認 | 1,500 | 必要な芸術の背景だけ。通史は書かない |
| 記述 | 5,000 | 作品の中の言及と描写を全部拾い、表にする |
| 分析 | 5,000 | 型を1つ決めて論じる |
| 芸術の側の史料 | 1,500 | 展覧会の記録・批評・制度 |
← 横に動かして読めます →
⚡ 配分の要点
- 芸術史の説明は最小限にする。
- 記述の章に最も紙幅を使う(08の領域)。
- 芸術の側の史料は、必要な分だけ確かめて示す。
見る力を育てる
⚡ 文学専攻にとって最も役に立つ訓練
- 1枚の絵を、10分見て、見たものを言葉にする。
- 色・形・構図・光・視線の方向を書く。
- 判断(美しい・力強い)を先に書かない。
- これは精読と同じ手順にあたる(07の領域)。観察を先に、解釈を後に。
- 記述できるものが増えるほど、作品の描写の分析も精度が上がる。
⚡ 音楽の場合
- 同じ曲を、違う演奏で聴き比べる。
- 速さ・音の強弱・間の取り方の差を書く。
- 同じ詩に付けられた複数の曲を比べる(第11章)。
- これも07の領域の翻案の分析と同じ手順にあたる。
この教材を終えて
20章で扱ったのは、作品を読むために必要な範囲の芸術である。
⚡ これからの使い方
- 作品に芸術が出てきたら、早見表で年と様式を引く。
- 第19章の5つの型のどれかを選ぶ。
- 型1〜4を主に、型5は補助にする。
- 記述を先に固め、そのあとで意味づける(08の領域)。
この教材が扱わなかったのは、専門的な美術史と音楽史そのものである。卒論でそこまで踏み込むなら、その分野の指導を受ける必要がある。
文学専攻に求められるのは、位置と関係を正確に押さえることにあたる。それだけで、作品の記述の読み方は確実に変わる。
⚠️ この章で混同しやすい形
- 図版を載せることを前提に書く。著作権を確かめ、載せられないなら言葉で記述する。
- 来歴を単なる所有の記録と考える。受容史の資料にあたる。
- 様式名を断定して使う。後から付けられたものが多い。
- 芸術史の説明で紙幅を埋める。必要な部分だけにする。
図書館の使い方
⚡ 芸術関係で探すもの
- 展覧会の図録(ずろく)。大学図書館と美術館の資料室にある。
- 作品の総目録。1人の作家の全作品を年代順に並べた本。制作年の確認に使う。
- 美術と音楽の事典。用語と人名を引く。
- 雑誌のバックナンバー。同時代の批評が読める(07の領域)。
⚡ 電子で使えるもの
- 国立の電子図書館。19世紀までの雑誌と版画が大量に公開されている。
- 美術館の所蔵品目録。作品情報と来歴が引ける。
- 公開されている全文の資料。著作権の切れた批評文と展覧会目録。
⚠️ 電子資料を使うときの注意
- 公開されている範囲を確かめる。全部が電子化されているわけではない。
- 画像の質。色と細部が正確とは限らない。
- 出典の書き方。電子資料も、紙と同じ情報を書いたうえで、閲覧した日付を添える(07の領域)。
1年の進め方
この教材を、実際の学年の中でどう使うか。
| 時期 | やること |
|---|---|
| 前期のはじめ | 第1章と第19章を読む。枠組みだけ先に持っておく |
| 授業で作品が出たとき | 早見表で年と様式を引き、該当章だけ読む |
| レポートを書く前 | 第19章で型を選び、第20章で調べ方を確かめる |
| 長期の休み | 美術館に行く。「見る力を育てる」訓練を実際にやる |
| 卒論の準備期 | 扱う作家の時代の章を通して読み直す |
⚡ 通読は1回でよい
- この教材は、引くために作ってある(第1章)。
- 1回通して読んだら、あとは必要な章だけ開く。
- 早見表が入口にあたる。
- 索引から、他の教材の該当箇所へ移れる。
⚡ 第20章の通過チェック
- 図版を探す4つの場所を言える
- 作品について記録する5項目を言える
- 来歴が資料として使える理由を3つ言える
- 用語を調べるときの4つの注意を言える
- 卒論でやってよいことを5つ、やらないほうがよいことを4つ言える
- 2万字での分量の配分を言える
- 見る力を育てる訓練の手順を言い、精読との共通点を言える