20世紀|第18章 20世紀後半 — 抽象・美術館・文化政策
この章の狙い
要点: 芸術が国家の政策の対象になる。
美術館が建てられ、文化への支出が制度になる。そして「誰が芸術を決めるのか」という問いが、正典の問題と重なる(08の領域)。
この章は、現在の美術館で作品を見るときの前提を作る章にあたる。
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1945年〜 | 戦後の再建(03の領域)。芸術の中心がパリから移っていく |
| 1940年代後半 | 形を持たない抽象の絵画が広がる |
| 1959年 | 文化を担当する省庁が置かれる |
| 1960年 | 日常の事物を用いる新しい方向が名付けられる |
| 1960年代 | 文化の家が各地に設けられる |
| 1970年代 | 概念を作品とする方向が広がる |
| 1977年 | 現代芸術の総合施設が開館する |
| 1980年代 | 大規模な公共建築の事業が進む(03の領域) |
| 1986年 | 19世紀美術を集めた美術館が、駅舎を転用して開館 |
| 1989年 | ルーヴルの新しい入口が完成する |
⚠️ この章では図版を示していない
- 20世紀の作品は著作権が存続しているものが多い(第1章)。
抽象と、その後
⚡ 戦後の抽象
- 形を持たない絵画。描く行為の痕跡そのものが画面になる。
- 筆致・滴(したた)り・厚い絵具。
- 偶然を取り込む。シュルレアリスムの自動的な方法と接続する部分がある(第15章)。
- ただし各国で同時に起きており、フランス固有の運動ではない。
⚡ 1960年代以降の方向
- 日常の事物を用いる。廃棄物、看板、ポスターの断片。
- 行為そのものを作品とする。
- 概念を作品とする。物としての作品を作らない試み。
- これらは共通して、「作品とは何か」を問い直している(第15章のダダの問いの反復)。
美術館という制度
⚡ 20世紀後半に起きたこと
- 現代の作品を収蔵する美術館が整備される。
- 回顧展という形式が定着する。1人の作家の生涯を一望させる。
- 美術館が、何を残すかを決める(08の領域の正典)。
- 入場者数が評価の指標になる。大規模な企画展が増える。
- 建物そのものが作品として扱われる。
⚠️ 美術館を透明な器と考えない
- 展示の順序と分類が、見方を決める。
- 年代順に並べると、進歩の物語になりやすい(04の領域)。
- 国別に分けると、国民の枠が前提になる(08の領域)。
- 何が収蔵されていないかを見る。これは正典の分析と同じ作業にあたる。
文化政策
⚡ 1959年以降
- 文化を担当する省庁が置かれた。
- 目的の1つは、芸術への接近を広げること。地方と、これまで接していなかった層へ。
- 各地に文化の施設が設けられた。
- 国家が芸術を支援するという枠組みが制度になる。
⚠️ 論点
- 国家が支援すると、何が支援されるかを国家が決めることになる。
- 「文化の民主化」が実際にどこまで進んだかは、調査に基づく議論がある。
- 地域と階層による接近の差は残っているという指摘がある(03・08の領域)。
- この論点は、正典と教育の問題と同じ構造にあたる(08の領域)。
遺産という考え方
- 📘 文化遺産:保存し、次の世代に伝えるべきものとされた文化的な対象のこと。何を遺産とするかは、選択にあたる。
⚡ 範囲が広がってきた
- かつては記念建造物が中心だった(第12章の修復)。
- 20世紀後半に、産業の建造物、集合住宅、日常の景観へ広がる。
- 無形のもの(技術・慣習・音楽)も対象に含まれるようになった。
- 範囲が広がるほど、「何を選ぶか」の判断が問題になる。
現在の見え方
⚡ 美術館で作品を見るときの前提
- 展示されているものは、選ばれたものである。
- 並べ方に解釈が入っている。
- 修復と保存の状態が、見え方を左右する。
- 説明のパネルは、特定の見方を提示している。
- したがって、美術館そのものを分析の対象にできる(08の領域の文化研究)。
文学とのつながり
⚡ 押さえておくこと
- 正典の問題が共通する。何が残り、何が忘れられるか(08の領域)。
- 国家と文化 — 作家への支援、賞、教育での扱い(03の領域)。
- 記憶と遺産 — 何を保存するかという問いは、歴史の記憶の問題と重なる(03・04の領域)。
- 戦後の作家が、美術について書いた例が多い。批評としても読める(07の領域)。
- 美術館を舞台にした作品もある。制度の中で作品を見るという経験そのものが主題になる。
⚠️ この章で混同しやすい形
- 戦後の抽象をフランス固有の運動と考える。各国で同時に起きている。
- 美術館を中立な器と考える。展示の順序と分類が見方を決める。
- 文化政策を単に支援と考える。何を支援するかを決めるという側面がある。
- 文化遺産を自明の範囲と考える。何を遺産とするかは選択にあたる。
展覧会という形式
⚡ 20世紀後半に定着したもの
- 企画展。主題を決めて、各地から作品を借りて構成する。
- 図録(ずろく)。論文と全作品の情報が載る。研究の資料として残る(第20章)。
- 企画する人の役割が大きくなる。誰がどう並べたかが問われる。
- 巡回する。同じ企画が複数の都市で開かれる。
⚡ 文学研究への使い道
- 作家に関する展覧会が開かれることがある。原稿・書簡・写真が展示される。
- 図録に、最新の研究が載っている場合が多い。
- 展示された草稿の写真が、資料として使える(07の領域)。
- 展覧会の構成そのものが、その作家の現在の評価を示す(08の領域)。
数字で見る文化
⚡ 調査が行われている
- どの層が、どれだけ美術館・劇場・演奏会に行くかの調査が定期的に行われてきた。
- 学歴と職業による差が大きいという結果が繰り返し出ている。
- この差は、文化政策の目標との関係で論じられてきた。
- 04・08の領域で扱う理論と、直接つながる論点にあたる。
⚠️ 数字の扱い
- 調査の方法と年を確かめる(07の領域)。
- 「変わっていない」と「変わった」のどちらの読みも可能な場合がある。
- 数字を根拠に使うなら、出典を示す。
- 文学の読書についての調査も同様に存在する。並べると論点が立てやすい。
⚡ 第18章の通過チェック
- 戦後の抽象の特徴を3つ言え、フランス固有でない理由を言える
- 1960年代以降の方向を3つ言い、共通する問いを言える
- 美術館で20世紀後半に起きたことを4つ言える
- 美術館を透明な器と考えない理由を3つ言える
- 文化政策の目的と、その論点を言える
- 文化遺産の範囲が広がってきたことを説明できる
- 美術館で作品を見るときの前提を4つ言える
次章へ
次章は作品と芸術をどう結ぶかである。この教材の実践編にあたる。
作品に絵画や音楽が出てきたとき、どう扱うか。そして同じ時代の別の形式と、どう比べるか。5つの接続の型を示し、それぞれの手順と危険を並べる。