19世紀|第12章 建築と都市 — 鉄・ガラス・パリ大改造
この章の狙い
要点: パリという都市そのものが、19世紀に作り直される。
鉄とガラスという新しい材料、大通りと上下水道、万国博覧会の建造物。そして都市の改造が、文学の主題そのものになる。同じ通りを、小説と詩と絵画が扱っている。
年表
| 年 | 出来事 |
|---|---|
| 1820〜30年代 | 屋根つきの商店街(パサージュ)が造られる |
| 1840年代〜 | 鉄道の駅が建てられる。鉄とガラスの構造 |
| 1840年代〜 | 中世建築の修復事業が本格化する(第2章・第7章) |
| 1853〜1870年 | パリ大改造(03の領域) |
| 1850年代 | 中央市場が鉄とガラスで建てられる |
| 1861〜1875年 | オペラ座の新しい建物 |
| 1855年・1867年 | パリ万国博覧会(03の領域) |
| 1889年 | 万博。エッフェル塔が建てられる |
| 1900年 | 万博。地下鉄が開通する |
パリ大改造
内容は03の領域で扱った。ここでは建築と視覚の面を見る。
⚡ 何が変わったか
- 直線の大通り。遠くまで見通せる。視線が通る都市になる。
- 建物の高さと外観が統一された。同じ規則で建てられた集合住宅が並ぶ。
- 上下水道とガス灯。夜の街が明るくなる。
- 公園と並木。都市の中に緑が組み込まれる。
- 鉄道駅と大通りが結ばれる。移動の速度が変わる。
⚡ 視覚の変化
- 遠近法的な景観が作られた。大通りの先に記念建造物が置かれる。
- 群衆が見える。大通りを歩く人の流れが、風景になる。
- カフェのテラスから通りを眺めるという習慣ができる。
- この視覚が、絵画と文学の両方に現れる(第9章)。
⚠️ 代償
- 中心部の住民が立ち退かされ、周縁部へ移った(03の領域)。
- 古い街区が失われたとして、同時代から批判があった。
- 「消えたパリ」という主題が、詩と写真と回想に繰り返し現れる。
- この喪失の感覚が、19世紀後半の文学の1つの主題になる。
鉄とガラス
⚡ 新しい材料が可能にしたもの
- 広い内部空間。柱を減らし、大きな屋根を架けられる。
- 上からの採光。ガラスの屋根で内部が明るい。
- 短い工期。部材を工場で作り、現場で組む。
- これが、駅・市場・展示館・商店街に使われた。
- 📘 パサージュ:通りと通りを結ぶ、ガラス屋根の付いた歩行者用の商店街のこと。19世紀前半のパリに多数造られた。
⚡ パサージュがなぜ重要か
- 屋内でも屋外でもない空間にあたる。
- 歩きながら商品を眺めるという経験が生まれた。
- 大改造の大通りに押され、後に衰退する。
- 20世紀に、この空間が19世紀の都市経験の象徴として論じられた(04の領域)。
⚡ エッフェル塔
- 1889年の万博のために建てられた。当初は一時的な建造物の予定だった。
- 完成時に、多くの作家と芸術家が反対の声明を出した。
- 「美的でない」「都市の景観を損なう」という批判にあたる。
- その後、都市の象徴になる。評価の反転が、この建造物の受容史の要点にあたる(08の領域)。
中世建築の修復
⚡ 何が行われたか
- 大聖堂と城が、大規模に修復された(第2章)。
- 方針は「本来あるべき姿に戻す」というものだった。
- したがって、当時なかった部分が加えられている場合がある。
- 現在見えている中世建築の姿は、この修復を経ている。
⚠️ 修復をめぐる論争
- 「あるべき姿」を誰が決めるのかという問題がある。
- 現状を保存すべきだという立場が、別に存在した。
- この論争は、07の領域の版と本文の問題と同じ構造にあたる。どの状態を正しいものとするか。
万国博覧会
⚡ 何を見せる場だったか
- 産業の製品と技術。
- 各国の文化。
- 植民地の産物と人々(03の領域)。展示という形式そのものが問題になる(08の領域)。
- 数百万人が訪れた。都市の大きな出来事にあたる。
- 建造物が残る。博覧会のために建てられた建物が、都市の一部になる。
文学とのつながり
⚡ この時期の作品を読むときに要る背景
- 都市の描写 — 大通り、群衆、ガス灯、カフェ。これらは1850年代以降のパリの姿にあたる。作品の年と合っているかを確かめる。
- 喪失の主題 — 「消えた古いパリ」を嘆く記述は、大改造への応答として読める。
- 百貨店と商店街 — 消費の空間が、小説の舞台になる(第9章・03の領域)。
- 駅と鉄道 — 移動と別離の場面が、鉄道の時代に固有の形を取る(03の領域)。
- エッフェル塔への反対 — 作家が声明に名を連ねている。芸術家の公的な発言の例にあたる(04の領域)。
⚠️ この時代で混同しやすい形
- パリ大改造を、単なる美化事業と考える。衛生・交通・治安・経済の目的があった(03の領域)。
- パサージュと大通りを同じ時期のものと考える。パサージュが先で、大通りに押されて衰退する。
- エッフェル塔が最初から歓迎されたと考える。多くの作家と芸術家が反対の声明を出した。
- 現在見える中世建築を、そのまま中世の姿と考える。19世紀の修復を経ている。
鉄とガラスの建築
⚡ 19世紀の新しい素材
- 鉄で骨組みを作り、ガラスで覆う。それまでにない大きさの内部空間が可能になる。
- 駅・市場・温室・商店・博覧会の建物に使われた。
- 石造りの建築とは、見た目も作り方も違う。
- 当初は「建築ではない」と見なされる面があった。技師の仕事とされたためである。
⚡ 文学とのつながり
- これらの建物が、19世紀の小説の舞台として繰り返し出てくる。駅、百貨店、屋根つきの商店街。
- 新しい空間の経験が、描写の対象になっている。
- 群衆と匿名性が主題になる(03の領域)。
- 第19章の型3が使える。その空間で人物がどう振る舞うか。
博覧会という場
⚡ 19世紀後半に繰り返し開かれた
- 産業・技術・芸術・植民地の展示が一か所に集まる。
- 大量の来場者。都市の景観を変える建築が残った。
- 各国の展示館が並ぶ。国どうしの比較が前提になっている。
- 植民地の展示が含まれていた。人と文化が展示の対象にされた例がある(03の領域)。
⚠️ 博覧会を単なる祝祭と考えない
- 何を展示するかに、国家の主張が入っている。
- 序列を示す装置として機能した面がある。
- 同時代の文学に、博覧会の場面が出てくる。批判的に描いた例もある。
- この論点は、第18章の文化政策と第14章の受容の問題につながる。
⚡ 第12章の通過チェック
- パリ大改造で変わったものを5つ、建築と視覚の面から言える
- 大改造がもたらした視覚の変化を4つ言える
- 鉄とガラスが可能にしたものを3つ言える
- パサージュとは何か、なぜ重要かを言える
- エッフェル塔の受容の反転を説明できる
- 中世建築の修復の方針と、その問題を言える
- 万国博覧会が何を見せる場だったかを4つ言える
次章へ
次章は写真の発明である。表象の条件そのものが変わる。
目に見えたものを、機械が記録する。そのとき絵画は何をする分野になるのか。そして肖像・都市の記録・報道が、写真という形で作られていく。文学における描写の意味も、これによって問い直される。