地域|第7章 カリブ海とクレオール性
この章の狙い
要点: ネグリチュードへの応答として展開した地域である。
アフリカへの回帰ではなく、カリブ海そのものの混淆(こんこう)から考える。グリッサンの「関係の詩学」と、1989年の宣言を扱う。
条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | マルティニック、グアドループ、ギアナ、ハイチ |
| 成り立ち | 奴隷制と強制的な移動。元の言語と社会が断たれている |
| 現在の地位 | マルティニック・グアドループ・ギアナはフランスの海外県。独立していない |
| ハイチ | 1804年に独立。世界で最初の黒人の共和国にあたる |
| 言語 | フランス語とクレオール語が並存する |
⚠️ 海外県であることが決定的にあたる
- 独立していないので、脱植民地化の物語が当てはまらない。
- フランスの一部でありながら、本国とは別の歴史を持つ。
- この中間の位置が、この地域の思想の出発点になっている。
- 📘 クレオール語:異なる言語が接触して生まれ、その地の母語として定着した言語のこと。カリブ海のクレオール語は、フランス語と西アフリカの諸言語の接触から生まれた。
⚠️ クレオール語は方言ではない
- 独立した言語体系にあたる。
- フランス語の崩れた形ではない。
- この認識が、1980年代以降の運動の前提になっている。
3つの段階
| 段階 | 立場 | 中心 |
|---|---|---|
| 1 ネグリチュード(1930年代〜) | アフリカへの回帰 | セゼール |
| 2 アンティル性(1960年代〜) | カリブ海そのものの歴史から | グリッサン |
| 3 クレオール性(1989年〜) | 混淆そのものを積極的に | 3人の宣言 |
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⚡ 段階が進むほど、外への参照が減る
- 1はアフリカを参照する。
- 2はカリブ海の歴史を参照する。
- 3は現在の混淆した状態そのものを参照する。
- 後の段階が前を否定するのではなく、前を条件として現れている。
エドゥアール・グリッサン
⚡ グリッサン(1928-2011、マルティニック)
- 小説・詩・評論のすべてを書いた。
- 1981年の評論でカリブ海の歴史と文化を体系的に論じた。
- 1990年の評論で「関係の詩学」を提示した。
⚡ 主要な考え方
- アンティル性 — アフリカへの回帰ではなく、カリブ海で起きたことそのものから考える。
- 関係 — 単一の起源を持たず、複数のものが関わり合う状態を積極的に捉える。
- 不透明性への権利 — 他者を完全に理解できるという前提を拒む。分かりやすく説明されることを求めない権利。
- 全世界 — 世界全体が混淆した状態にあるという捉え方。
⚠️ 「不透明性への権利」は誤解されやすい
- 理解を拒否することではない。
- 理解できるという前提が、しばしば支配の形を取ってきたという指摘にあたる。
- 08の領域の他者をめぐる議論と直結する。
クレオール性の宣言
⚡ 1989年
- 3人の共著による宣言が出された。ジャン・ベルナベ、パトリック・シャモワゾー、ラファエル・コンフィアン。
- 「われわれはヨーロッパ人でもアフリカ人でもアジア人でもなく、クレオールである」という趣旨の主張から始まる。
- ネグリチュードを、必要な段階ではあったが乗り越えるべきものとして位置づけた。
- クレオール語の価値を正面から主張した。
⚡ パトリック・シャモワゾー(1953- 、マルティニック)
- 1992年にゴンクール賞。
- フランス語の中にクレオール語の語彙とリズムを持ち込む文体。
- 第2章の「所有」の立場の、最も明確な実践にあたる。
- 語り手が読者に呼びかける構成を取ることが多い。口承の形式である。
⚠️ クレオール性への批判もある
- グリッサン自身が、この宣言と距離を取った。混淆を1つの本質にしてしまう危険を指摘している。
- ネグリチュードへの批判が、そのままクレオール性にも当てはまりうるという構図にあたる。
- この応酬そのものを論点にできる。
マリーズ・コンデとハイチ
⚡ マリーズ・コンデ(1934-2024、グアドループ)
- アフリカ、カリブ海、アメリカを舞台にした小説を書いた。
- クレオール性の運動とは距離を取り、独自の位置にいた。
- 女性の登場人物を中心に置く作品が多い。08の領域のジェンダーの批評と結びつけやすい。
⚡ ハイチ
- 1804年に独立。カリブ海のほかの地域と条件がまったく違う。
- 20世紀に長い独裁の時期があり、多くの作家が国外へ出た。
- 亡命先はケベック(第8章)とフランスと北米。
- ケベックの文学とハイチの文学が接続するという経路がある。
⚠️ この章で混同しやすい形
- マルティニックやグアドループを独立国と考える。フランスの海外県にあたる。
- クレオール語を方言と考える。独立した言語体系である。
- 3つの段階を、後が前を全面否定したものと考える。前を条件として現れている。
- 「不透明性への権利」を理解の拒否と考える。理解できるという前提への批判にあたる。
空間と歴史をどう書くか
⚡ この地域に固有の主題
- 元の言語と社会が断たれている。したがって起源に遡(さかのぼ)れない。
- 奴隷制の時期の記録が、支配する側の文書しか残っていない。
- したがって「書かれなかった歴史をどう書くか」が形式上の問題になる。
- 想像による補いを、どこまで、どう示すか。
⚡ 形式に現れること
- 複数の語り手。1つの視点から全体を語らない。
- 年代記の形式と、その中断。
- プランテーションの空間が繰り返し現れる。
- 地形そのものを主題にする。山、森、海。
⚠️ これは第10章の記憶の継承と同じ形式上の問題にあたる
- 語られなかったことをどう書くか。
- 地域は違うが、形式の問題としては共通する。
- 並べて論じることができる。
用語の整理
| 語 | 意味 | 使う場面 |
|---|---|---|
| クレオール語 | 接触から生まれ母語として定着した言語 | 言語そのものを指すとき |
| クレオール性 | 混淆した状態を積極的に引き受ける立場 | 1989年以降の運動を指すとき |
| アンティル性 | カリブ海そのものの歴史から考える立場 | グリッサンの立場を指すとき |
| 関係 | 単一の起源を持たず関わり合う状態 | グリッサンの理論を指すとき |
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⚠️ この4語を混ぜない
- 「クレオール」だけで書くと、言語なのか立場なのかが分からない。
- レポートでは最初に定義を置く(07の領域)。
⚡ 第7章の通過チェック
- 対象となる地域と、それぞれの現在の地位を言える
- ハイチがほかと違う理由を言える
- クレオール語が方言でない理由を言える
- 3つの段階と、それぞれの中心人物を言える
- グリッサンの4つの考え方を言える
- 1989年の宣言の主張と、それへの批判を言える
次章へ
次章はケベックである。
条件がまったく違う。植民地支配の結果ではなく、17〜18世紀の入植とその後のイギリスの支配という経路にあたる。言語を守ることが、そのまま政治になった地域である。