地域|第5章 サハラ以南アフリカ
この章の狙い
要点: マグレブとは条件が違う。
独立は交渉によるものが多く、1960年に多数の国が同時に独立した。そして口承(こうしょう)の伝統が、書かれた文学とどう結びつくかという、この地域に固有の問題がある。
条件
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 支配の形 | フランス領西アフリカ・フランス領赤道アフリカなどの連邦として統治 |
| 独立 | 1960年に集中。多くは交渉による |
| 言語 | ウォロフ語、バンバラ語、フラニ語ほか多数。国ごとに複数 |
| 出版 | 長く本国のパリが中心。現地の出版社は後から育つ |
⚡ マグレブとの違い
- 入植者の数がはるかに少ない。したがって独立が戦争にならなかった国が多い。
- 言語の数が多い。1つの国に複数の言語があり、フランス語が共通語として機能する場合がある。
- 書き言葉の伝統が、アラビア語圏とは違う形にあたる。
- 口承の伝統が強い。これが文学の形に直接影響する。
口承と書き言葉
- 📘 口承:文字ではなく、語りによって伝えられてきた物語・歴史・詩のこと。西アフリカでは専門の語り手がその担い手だった。
⚡ 書かれた文学にどう入るか
- 語り手が作品の中に登場する構成。
- 繰り返しと呼びかけといった、聞かせるための形式が文章に入る。
- 諺(ことわざ)と決まり文句が地の文に埋め込まれる。
- 時間の扱いが、直線的でない場合がある。
⚠️ 口承の要素を「素朴さ」と読まない
- 意識的な形式の選択にあたる。
- フランス語の散文の規範に対する、意図的なずらしである場合が多い。
- 第2章の「所有」の立場の実践にあたる。
主要な作家
⚡ シェイク・ハミドゥ・カン(1928-2024、セネガル)
- 『あいまいな冒険』(1961年)が代表作にあたる。
- 主人公が、伝統的な宗教教育とフランス式の学校教育の間で引き裂かれる。
- 独立の年の前後に書かれた作品として、この地域の問いを最も明確な形で示している。
- 第2章の言語の問題が、教育の問題として現れる例である。
⚡ アマドゥ・クルマ(1927-2003、コートジボワール)
- 『独立の太陽』(1968年)が代表作にあたる。
- 母語の構文とリズムをフランス語に持ち込んだ。「フランス語を作り変える」実践の代表例である(第2章)。
- 独立後の失望を主題にする。独立を到達点として書いていない。
- 2000年に別の作品でルノドー賞を受けた。少年兵を主題にしている。
⚡ マリアマ・バー(1929-1981、セネガル)
- 『こんなに長い手紙』(1979年)が代表作にあたる。
- 書簡の形式。女性の立場から、一夫多妻と社会の変化を書く。
- この地域の女性作家として最も広く読まれた1人である。
- 08の領域のジェンダーの批評と結びつけやすい。
⚡ ウスマン・センベーヌ(1923-2007、セネガル)
- 小説から映画へ移った。
- 理由として、文字を読めない読者に届けるためということが語られる。
- 第2章の「移る」の最も明確な例にあたる。
- 05の領域の映画とも接続する。
独立後の主題
⚡ 1960年代後半以降に現れる主題
- 独立後の権力の腐敗。
- 都市への移動と、そこでの困窮。
- 伝統と近代の間で引き裂かれる個人。
- 内戦と少年兵。1990年代以降に増える。
⚠️ 「アフリカ文学」と一括りにしない
- 国が多く、言語状況も歴史も違う。
- 英語で書かれる文学とも別の系統にあたる。
- どの国のどの時期かを必ず示す。
出版と読者
⚡ 構造上の問題
- 本国の出版社から出る作品が、国際的に読まれる。
- 賞も本国のものが基準になる。
- その結果、本国の読者に向けた説明が作品に入る場合がある。
- 地元の読者向けの出版は、部数も流通も限られる。
⚠️ この構造を批判の対象にできる
- 「誰に向けて書かれているか」を分析の論点にできる(第2章・第12章)。
- 説明的な記述がどこに入っているかを数えられる。
- これは08の領域のポストコロニアル批評の中心的な問いにあたる。
⚠️ この章で混同しやすい形
- マグレブと同じ条件と考える。入植者の数も、独立の形も違う。
- 口承の要素を素朴さと読む。意識的な形式の選択にあたる。
- 独立を到達点として書く。独立後の失望を書いた作品が多い。
- 「アフリカ文学」と一括りにする。国と時期を示す。
独立と国語の政策
⚡ 独立後に各国が直面したこと
- 国内に複数の言語があり、どれを国語にするかが決めがたい。
- 1つを選ぶと、ほかの言語集団との対立になる。
- 結果として、フランス語を公用語のまま残した国が多い。
- マグレブのアラビア語化政策(第3章)とは、逆の選択にあたる。
⚠️ この違いが文学に影響する
- フランス語で書くことが、国内で問題にならない場合がある。
- したがって第2章の「疎外」の立場が、この地域では相対的に弱い。
- 地域ごとに、同じ問いの重さが違う。
語りの形式を記述する
⚡ 口承の要素を、分析の言葉で書く
- 語り手が読者に呼びかける → 物語論の用語では、語りの水準の操作にあたる(08の5章)。
- 同じ句が繰り返される → 反復の頻度と位置を数える。
- 諺が地の文に埋め込まれる → 引用の形式を取らない引用にあたる(08の9章の間テクスト性)。
- 時間が円環(えんかん)を描く → 語りの順序の分析(08の5章)。
⚡ なぜ言い換えるか
- 「口承的である」だけでは記述になっていない(08の領域)。
- 08の道具に置き換えると、数えられる形になる。
- これがこの分野のレポートで最も効く手順にあたる(第11章)。
⚡ 第5章の通過チェック
- この地域とマグレブの条件の違いを4つ言える
- 口承の要素が書かれた文学にどう入るかを4つ言える
- 『あいまいな冒険』の主題と、書かれた時期の意味を言える
- クルマの言語の実践と、独立をどう書いたかを言える
- センベーヌが映画に移った理由を言える
- 出版と読者の構造上の問題を説明できる
次章へ
次章はネグリチュードである。
1930年代のパリで、アフリカとカリブ海の学生たちが始めた運動にあたる。セゼール、サンゴール、ダマス。地域を超えて結ばれた最初の運動であり、そして後の世代から強く批判された運動でもある。