地域|第3章 マグレブ — アルジェリア・モロッコ・チュニジア
この章の狙い
要点: フランスの支配がいちばん長く、いちばん深かった地域である。
アルジェリアは1830年から132年間、フランスの一部として統治された。モロッコとチュニジアは保護領で、期間も短い。この違いが、3国の文学の違いを作っている。
3国の条件の違い
| 国 | 支配の形 | 期間 | 独立 |
|---|---|---|---|
| アルジェリア | 併合。フランスの県として統治 | 1830〜1962年 | 戦争を経て1962年 |
| チュニジア | 保護領 | 1881〜1956年 | 交渉により1956年 |
| モロッコ | 保護領 | 1912〜1956年 | 交渉により1956年 |
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⚡ なぜこの違いが効くか
- アルジェリアだけが「フランスの一部」とされた。したがって独立が本国にとって国土の喪失を意味した。
- 入植者の数が多かった。カミュの家族もその一部にあたる(10の18章)。
- 独立が戦争になったのはアルジェリアだけである(第4章)。
- 文学の主題の重さが、この条件から来ている。
⚠️ 3国をまとめて論じない
- 「マグレブ文学」と一括りにすると、この違いが消える。
- どの国のどの世代かを必ず示す。
言語の状況
⚡ 複数の言語が層をなしている
- アラビア語 — 正則アラビア語(書き言葉)と、地域ごとの口語アラビア語。
- ベルベル語(タマジグト) — 先住の言語。地域によって話者が多い。
- フランス語 — 植民地期の学校と行政の言語。
- これが1人の中に同時にある。第2章の二言語併用が、実際には三重・四重になる。
⚠️ アラビア語も一枚岩ではない
- 書き言葉の正則アラビア語と、話し言葉の口語アラビア語は別のものにあたる。
- したがって「アラビア語に戻る」という選択も、単純ではない。
- 独立後のアラビア語化政策が、フランス語で書く世代との断絶を生んだ側面がある。
アルジェリアの作家
⚡ カテブ・ヤシン(1929-1989)
- 『ネジュマ』(1956年)が代表作にあたる。
- 時間の順序を崩し、視点を交代させる構成。筋が直線に進まない。
- 同時代の本国の前衛的な小説と、形式の面で並行する部分がある(08の領域)。
- 後に演劇へ移り、口語アラビア語で上演を行った。第2章の「移る」の例にあたる。
⚡ アシア・ジェバール(1936-2015)
- 小説と映画の両方で活動した。
- 女性の声と記憶を主題にする。書かれずに消えた声を書くという姿勢。
- 2005年にアカデミー・フランセーズ会員に選ばれた。マグレブ出身者として初めてにあたる。
- 歴史の資料と自伝と虚構を混ぜる構成を取る。
⚡ モハメッド・ディブ(1920-2003)
- 植民地期の農村と都市を描く三部作から出発した。
- 後期は、より抽象的で詩的な作風へ移る。
- 1つの作家の中で作風が大きく変わる例にあたる。
モロッコとチュニジアの作家
⚡ タハール・ベン・ジェルーン(1944- 、モロッコ)
- 1987年にゴンクール賞。マグレブ出身者として初めてにあたる。
- 語りの形式に、口承の物語の構造を取り込む。
- 本国で最も広く読まれるマグレブ出身の作家の1人である。
⚡ アブデルケビール・ハティビ(1938-2009、モロッコ)
- 評論と小説の両方。
- 二言語の状態そのものを理論化した(第2章)。
- 社会学と文学批評をまたぐ仕事にあたる。
⚡ アルベール・メンミ(1920-2020、チュニジア)
- ユダヤ系チュニジア人として、支配する側にも支配される側にも完全には属さない位置から書いた。
- 植民地の状況を分析した評論(1957年)が広く読まれた。
- 小説と評論の両方を書いている。
⚠️ メンミの位置に注意する
- 「植民者でも被植民者でもない」立場を、本人が主題にしている。
- この位置は、カミュとも、アルジェリアのムスリムの作家とも違う。
- こういう中間の位置が、この地域には複数ある。
独立後の問題
⚡ 独立で終わらない
- アラビア語化政策により、フランス語で書く作家の位置が国内で不安定になる。
- 1990年代のアルジェリアの内戦で、多くの知識人が国外へ出た。この時期の作品は亡命の文学として読める。
- 本国で出版し、本国の読者に読まれるという構図が続く。第2章の読者の問題にあたる。
⚠️ 独立を到達点として書かない
- 「支配→抵抗→独立→終わり」という物語にしない。
- 独立後の問題を書いた作品のほうが多い。
- これは08の領域のポストコロニアル批評が繰り返し指摘する点である。
⚠️ この章で混同しやすい形
- 3国をまとめて論じる。支配の形も期間も違う。
- アラビア語を一枚岩と考える。書き言葉と話し言葉は別にあたる。
- 独立を到達点として書く。独立後の問題を書いた作品のほうが多い。
- メンミをカミュと同じ位置に置く。属する集団が違う。
女性作家の位置
⚡ この地域に固有の条件
- 教育の機会が男性に偏っていた時期が長い。書く側に立てる女性が限られた。
- したがって初期の作品は、男性の視点から女性が描かれる形が多い。
- 1970年代以降、女性作家の作品が増える。
- アシア・ジェバールの「書かれずに消えた声」という主題は、この条件そのものへの応答にあたる。
⚡ 分析でどう使うか
- 誰が誰を語っているか(08の13章・14章)。
- 女性の登場人物が、発話するか、されるだけか。数えられる。
- 家の内と外の空間の配分。
- 08の領域のジェンダーの批評が、この地域で最もよく効く部分にあたる。
映画との接続
⚡ この地域では映画が重要にあたる
- 文字を読めない層に届く(第5章のセンベーヌと同じ理由)。
- アシア・ジェバールは映画も撮っている。
- フランスとの共同製作が多く、資金と検閲の条件が作品に影響する。
- 05の領域の映画の章と、第11章の文化研究の枠組みで扱える。
⚠️ 小説の映画化を扱うなら
- 05の19章の型と、05の17章の手順を使う。
- 何が変えられたかを表にし、媒体の制約による変更と解釈による変更を分ける。
- この地域では、検閲と資金という第三の要因が加わる。
⚡ 第3章の通過チェック
- 3国の支配の形と期間の違いを言える
- アルジェリアだけが戦争になった理由を、統治の形から説明できる
- この地域の言語が何層になっているかを言える
- カテブ・ヤシンの形式上の特徴と、後の選択を言える
- アシア・ジェバールの主題と、2005年の出来事を言える
- 独立後に起きた3つの問題を言える
次章へ
次章はアルジェリア戦争と文学である。
1954年から1962年まで。フランス本国にとっても、アルジェリアにとっても、決定的な出来事にあたる。カミュの立場、ファノンの理論、そして本国の作家たちの分裂を扱う。