作法|第8章 レポートを組み立てる — 構成と段落
この章の狙い
要点: レポートは序論・本論・結論の3つでできている。それぞれに書くことが決まっている。決まっているものを決まった場所に置くだけなので、構成に創意(そうい)は要らない。
創意が要るのは問いと分析であって、構成ではない。型を守るほど、中身が見えやすくなる。
全体の配分
4,000字のレポートなら、次の配分が標準的である。
| 部分 | 字数の目安 | 割合 |
|---|---|---|
| 序論 | 400〜600字 | 1割強 |
| 本論 | 2,800〜3,200字 | 8割 |
| 結論 | 300〜500字 | 1割 |
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⚠️ 配分の崩れ方は決まっている
- 序論が長い。背景説明が1,500字続き、本論に入る前に紙幅が尽きる。背景は問いに必要な分だけでよい。
- 本論があらすじで埋まる。筋の紹介は、分析に必要な最小限にとどめる。
- 結論で新しい話を始める。結論は、本論で示したことをまとめる場所にあたる。
序論に書く4つ
順番も決まっている。
⚡ 序論の4要素
- 1. 対象を示す。「本稿は、フローベール『ボヴァリー夫人』(1857年)を扱う。」
- 2. 問いを示す。「本稿が問うのは、〜である。」ここが序論の中心にあたる。
- 3. 先行研究の中での位置を示す。「この作品の語りについては〜と論じられてきたが、〜は十分に検討されていない。」(第4章の研究史)
- 4. 進め方を示す。「まず〜を確認し、次に〜を分析し、最後に〜を論じる。」
この4つを、1つずつ2〜3文で書けば、序論は完成する。
⚡ 序論を最後に書く
- 序論は、本論を書き終えてから書くほうが速い。書き終えて初めて、自分が何を論じたのかが確定する。
- 書き始めるときは、仮の序論でよい。問いだけ書いておいて、最後に整える。
- 問いが本論の途中で変わったら、序論の問いも書き換える。食い違ったまま提出されるレポートが非常に多い。
本論をどう並べるか
本論の並べ方には、よく使う3つの型がある。問いの型(第2章)と対応している。
| 型 | 並べ方 | 合う問い |
|---|---|---|
| 積み上げ型 | 観察1 → 観察2 → 観察3 → まとめて主張 | 頻度・変化を問うとき |
| 対照型 | Aの分析 → Bの分析 → 比較 → 主張 | 比較を問うとき |
| 反転型 | 通説の提示 → それが成り立たない箇所 → 別の説明 | 矛盾・欠如を問うとき |
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⚡ どの型でも共通すること
- 本文の記述から始めて、主張で終える。主張から始めて例を探すと、都合のよい例だけを拾う形になる。
- 1つの節で1つのことを言う。節に見出しを付けてみて、付けられないなら2つのことを混ぜている。
- 例外を必ず処理する。「ただし◯箇所では〜」を入れると、論の信頼度が上がる。
段落の作り方
段落は論の最小単位である。第1章で見た「本文のどこ→何が起きているか→だから何が言えるか」が、そのまま段落の形になる。
⚡ 段落の4文モデル
- 1文目:主張。この段落で言いたいことを先に置く。
- 2文目:根拠。本文の記述、引用、数えた結果。
- 3文目:説明。その根拠がなぜ主張を支えるのか。
- 4文目:接続。次の段落へつなぐ、または限定を加える。
4文が最小で、実際には5〜8文になることが多い。目安は1段落200〜400字にあたる。
⚠️ 段落でよくある3つの崩れ
- 1段落が1,000字を超える。2つ以上のことを混ぜている。分ける。
- 1段落が1文。主張だけで根拠がない。または根拠だけで主張がない。
- 段落の1文目が「そして」「また」で始まる。主張が先頭にないので、何の段落か分からないまま読まされる。
結論に書くこと・書かないこと
| 書くこと | 書かないこと |
|---|---|
| 問いへの答えを、一文で | 新しい分析 |
| 本論で示した根拠の要約 | 新しい引用 |
| この論の限界(扱えなかった範囲) | 感想(「面白かった」) |
| 今後の課題(あれば) | 一般論(「現代社会は〜」) |
⚡ 結論の型
- 1. 「本稿は〜を問うた。」問いを再掲する。
- 2. 「その結果、〜が明らかになった。」答えを一文で。
- 3. 「これは〜を示している。」その答えの意味。
- 4. 「ただし本稿では〜を扱えなかった。」限界を書く。これは減点ではなく加点になる。
限界を書けるということは、自分の論の範囲が見えているということにあたる。書かないほうが不自然に見える。
フランス式の型との違い
フランスの大学では、日本とは違う型で書く。授業で扱われることがあるので、名前だけ知っておく。
- 📘 ディセルタシオン:与えられた命題について、賛成・反対・統合の3部で論じるフランスの論述形式。日本のレポートの「序論・本論・結論」とは組み立てが違う。 もう1つ、与えられた短い一節を冒頭から順に読み解いていく形式もある。こちらの手順は第11章で扱う。
| 日本のレポート | ディセルタシオン | |
|---|---|---|
| 出発点 | 自分で立てた問い | 与えられた命題 |
| 構成 | 序論・本論・結論 | 3部(正・反・合) |
| 結論 | 問いへの答え | 統合された第3の立場 |
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日本の授業で求められるのは、原則として前者である。指定があった場合だけ後者で書く。
書き始められないとき
⚡ 詰まったときの順序
- 序論から書かない。本論の、最も根拠が揃っている節から書く。
- 見出しだけを先に並べる。節の見出しを5つ書いて、そこに一言ずつ入れる。それが目次であり、設計図になる。
- 引用を先に並べる。使う予定の引用を全部貼り、その間を埋める。
- 話し言葉で一度書く。あとで論文の文体に直す(第10章)。
見出しを立てる
4,000字なら、本論に2〜3の見出しを立てる。見出しがあると、読み手も書き手も迷わない。
⚡ 見出しの付け方
- 内容を示す。「分析」ではなく「第1部における感情語の分布」。
- 各見出しが、1つの観察に対応する。見出しの数=観察の数になる。
- 見出しを並べて読んで、論の筋が通るかを確かめる。通らないなら、順序を変える。
| 悪い見出し | よい見出し |
|---|---|
| はじめに/本論/おわりに | そのままでもよいが、本論には内容を示す見出しを立てる |
| 分析1/分析2 | 農業共進会の場面/舞踏会の場面 |
| 考察 | 語り手の距離が変化する3つの箇所 |
4,000字の設計例
問い「『異邦人』第1部と第2部で、感情を表す語の頻度はどう変わるか」で組んだ場合。
| 部分 | 内容 | 字数 |
|---|---|---|
| 序論 | 対象・問い・先行研究・方針 | 500 |
| 1 数え方の設定 | 何を「感情を表す語」とするか。定義を先に置く | 600 |
| 2 第1部の分布 | 数えた結果。表。集中する箇所 | 900 |
| 3 第2部の分布 | 同上。第1部との差 | 900 |
| 4 差が意味すること | 語りの変化、裁判という場面との対応 | 700 |
| 結論 | 答え・限界 | 400 |
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⚡ この設計の要点
- 1で定義を置く。数える論では、何を数えたかを先に決めないと、結果が信用されない。
- 2と3が対になっている。同じ形で書くと、差が読み取りやすい。
- 4で初めて解釈に入る。2と3は観察にとどめる(第11章)。
締切から逆算する
| 締切までの日数 | すること |
|---|---|
| 10日前 | 問いを確定し、本文を読み直して根拠を集める |
| 7日前 | 見出しを立て、各節に一言ずつ入れる |
| 5日前 | 本論を書く |
| 3日前 | 序論と結論を書く |
| 2日前 | 推敲(第10章) |
| 1日前 | 注と参考文献を整える。この作業だけで数時間かかる |
⚠️ 前日に書き始めない
- 注と参考文献の整備に、思ったより時間がかかる。
- 書いている途中で根拠が足りないと気づくことが必ず起きる。そのとき本を開き直す時間が要る。
- 推敲の時間を確保できるかどうかで、評価は大きく変わる。
⚡ 第8章の通過チェック
- 4,000字での3部構成の配分を言える
- 序論の4要素を順に言える
- 序論をいつ書くのがよいかと、その理由を言える
- 本論の3つの型と、合う問いを言える
- 段落の4文モデルを言え、1段落の字数の目安を言える
- 結論に書くことと書かないことを、それぞれ3つ言える
- ディセルタシオンと日本のレポートの違いを3点言える
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レポートの型が分かれば、卒業論文はその拡大版になる。ただし分量が5倍になると、管理そのものが問題になる。
次章は卒業論文である。いつ何をするか、章立てをどう作るか、2万字をどう配分するか。3年の春から見ておくべき地図にあたる。