作法|第3章 資料を探す — 図書館とデータベース
この章の狙い
要点: 探し方を知らないと、探す時間のほとんどが無駄になる。どこに何があるかは決まっているので、目的から入口を選ぶだけでよい。
この章は読み物ではなく手順書にあたる。レポートや卒論に取りかかるときに開いて、そのとおりに動けばよい。
何を探しているのかを先に決める
探し始める前に、探しているものが5種類のどれかを決める。入口が変わる。
| 探すもの | 入口 |
|---|---|
| 作品の本文(原文) | 電子テクスト、または図書館の全集・文庫 |
| 邦訳 | 図書館の蔵書検索、文庫 |
| 研究論文(日本語) | 論文データベース |
| 研究論文(フランス語・英語) | 海外の論文データベース |
| 事実の確認(生没年・刊行年・用語) | 事典・便覧(べんらん) |
⚠️ 最初に検索サイトで作品名を入れる
- 出てくるのは要約と感想である。研究には使えない。
- 出典の分からない情報をレポートに書かない。孫引き(まごびき)以前の問題になる。
- 事実の確認は、必ず事典か研究書に当たる。
大学の図書館から始める
- 📘 OPAC:図書館の蔵書検索システムのこと。オンライン閲覧目録の略。その大学にどの本があるかを調べる入口にあたる。
⚡ 図書館で最初にやる3つ
- 蔵書検索で、作家名と作品名を入れる。全集・研究書・邦訳が一度に出る。
- データベース一覧のページを開く。大学が契約している有料のデータベースは、学内からか、学認(がくにん)などの認証を通せば無料で使える。
- 参考図書(レファレンス)の棚に行く。事典・便覧・書誌が並んでいる。開架(かいか)で、その場で引ける。
- 📘 書誌:ある主題について、これまで出た文献を一覧にしたもの。先行研究の全体像を最短で掴むための資料にあたる。
契約データベースは在学中しか使えない。卒業後は同じものに料金がかかる。在学中に使い倒すべき資源である。
日本語の論文を探す
| データベース | 何が引けるか |
|---|---|
| CiNii Research | 日本の学術論文・図書・博士論文。日本語の先行研究はまずここ |
| 国立国会図書館サーチ | 日本国内で刊行された出版物のほぼ全て |
| J-STAGE | 学会誌の本文。PDFで読めるものが多い |
| 各大学の機関リポジトリ | 紀要(きよう)論文や博士論文の本文 |
- 📘 紀要:大学や研究機関が発行する定期刊行の論文集のこと。日本のフランス文学研究の多くはここに載る。機関リポジトリで本文が公開されていることが多い。
⚡ 日本語で探すときの検索語
- 作家名は複数の表記を試す。「フローベール」「フロベール」「Flaubert」。
- 作品名と主題語を組み合わせる。「ボヴァリー夫人 自由間接話法」。
- 見つけた論文の参考文献一覧を見る。そこに次の文献がある。これが最も効率がよい。
フランス語・英語の論文を探す
| データベース | 何が引けるか |
|---|---|
| Gallica(フランス国立図書館) | 19世紀までの原典・新聞・雑誌が無料で読める。画像とテクストの両方 |
| Persée | フランスの学術誌のバックナンバー。無料 |
| OpenEdition Journals | フランス語圏の人文系電子ジャーナル。多くが無料 |
| Cairn.info | フランス語圏の学術誌・研究書。契約が要るものが多い |
| JSTOR | 英語圏中心の学術誌のバックナンバー。大学の契約で読める |
| MLA International Bibliography | 世界の文学研究の書誌。網羅性が最も高い |
⚡ フランス語で検索するときの注意
- アクセント記号は省いても引けることが多いが、両方試す。「theatre」と「théâtre」。
- 単数と複数を試す。「roman」と「romans」で結果が変わる。
- 前置詞と冠詞は入れない。「narrateur Flaubert」で足りる。
- 主題語の定番を覚える。énonciation(言表)、narration(語り)、réception(受容)、genèse(生成)、intertextualité(間テクスト性)。
- 📘 Gallica:フランス国立図書館が運営する電子図書館。著作権の切れた作品の初版や、当時の新聞・雑誌がそのまま見られる。初版と後の版の違いを確かめるときに使う。
電子テクストを使う
原文を数えたり検索したりするには、電子テクストが要る。
| 場所 | 内容 |
|---|---|
| Wikisource(フランス語版) | 公有の作品の本文。入力の誤りがあるので、必ず紙の版と照合する |
| Gallica | 初版の画像とテクスト。版が明確なので信頼できる |
| Frantext | フランス語のテクストコーパス。語の頻度を調べられる。契約が要る |
| Project Gutenberg | 公有作品の本文。多言語 |
⚠️ 電子テクストの落とし穴
- どの版を電子化したものかが書かれていないことがある。その場合、引用の根拠にはできない。
- 入力ミスがある。語を数えるには使えても、引用するときは紙の版で確かめる。
- 著作権が存続している作品は載っていない。載っていたら、それは無許諾(むきょだく)の公開である。使わない。
使い分けは決まっている。数えたり探したりするのは電子テクスト、引用の根拠にするのは紙の版である。
事実を確かめる
| 資料 | いつ引くか |
|---|---|
| 『フランス文学小事典(増補版)』 | 作家・作品・用語の基本。授業の指定参考書 |
| 『新フランス文法事典』(朝倉季雄) | 文法の細かい判断 |
| 『現代フランス広文典』(目黒士門) | 文法の通しの確認 |
| フランス語の文学事典 | 日本語の事典にない項目 |
| 各作家の研究書の巻末年譜 | 生涯の細かい事実 |
⚡ 事典の使い方
- 項目を読んだら、末尾の参考文献を必ず見る。次に読むべきものが書いてある。
- 事典の記述はレポートに引用しない。そこから辿った研究書を引用する。事典は入口であって根拠ではない。
- 複数の事典で食い違ったら、より新しく、より専門的なほうを採る。
手に入らないときの3つの道
| 状況 | どうするか |
|---|---|
| 自分の大学にない本 | 相互利用(そうごりよう)を申し込む。他大学から取り寄せられる |
| 論文の本文がない | 複写(ふくしゃ)を申し込む。有料だが数百円のことが多い |
| 現物が国内にない | 国立国会図書館、または海外からの取り寄せ。時間がかかるので早めに |
申し込みは図書館のカウンターかウェブから行う。手続きを知らないまま「手に入らない」と諦めている学生が多い。一度やれば覚える。
探した記録を残す
⚡ 文献カードに書く6項目
- 著者名 / 題名 / 収録誌または出版社 / 刊行年 / ページ / 入手先
- これを見つけた時点で書く。あとから探し直すと、同じ検索を繰り返すことになる。
- 第7章の参考文献一覧が、このカードからそのまま作れる形にしておく。
⚠️ URLだけを記録する
- リンクは切れる。著者・題名・刊行年を書いておかないと、二度と辿れない。
- 閲覧した日付も書く。ウェブ資料の書式に必要になる。
探し始めてから1時間の動き方
実際の手順を、時間の順に並べる。レポートの課題が出た日に、この通り動けばよい。
| 経過 | すること |
|---|---|
| 最初の10分 | 大学の蔵書検索で作家名を入れ、研究書と邦訳の在架(ざいか)を確認する |
| 次の10分 | 事典の該当項目を読み、末尾の参考文献を写す |
| 次の20分 | 論文データベースで、作家名+主題語で検索する。題名と要旨だけ見て、候補を10本挙げる |
| 次の10分 | 候補のうち、本文がすぐ読めるものを確認する |
| 最後の10分 | 文献カードの書誌欄だけを、全部埋める |
⚡ 1時間で得られるもの
- 読むべき文献のリスト(5〜10本)
- その分野で繰り返し出る研究者の名前(2〜3人)
- 主題語のフランス語(次の検索で使う)
- この3つがあれば、次からの検索が格段に速くなる。
検索してもうまく出ないとき
| 症状 | 原因と対処 |
|---|---|
| 結果が多すぎる | 語が一般的すぎる。作品名か具体的な技法名を足す |
| 結果がゼロ | 語が特殊すぎる。主題語を1つ外す。または表記を変える |
| 関係ないものばかり出る | 同名の別分野の語が混ざっている。分野で絞り込む |
| 日本語で出ない | その主題は国内で研究が薄い。フランス語・英語で探す |
| 本文が読めない | 紀要なら機関リポジトリ、雑誌なら図書館の所蔵を確認する |
⚠️ ゼロ件を「研究されていない」と受け取らない
- 検索語が合っていないだけのことがほとんどにあたる。
- 有名な作品で先行研究がゼロということはまずない。
- 本当にゼロなら、それは主題が絞られすぎているか、問いの立て方が特殊すぎる(第2章)。
主題語のフランス語
検索に使う語を、あらかじめ持っておく。
| 日本語 | フランス語 |
|---|---|
| 語り/語ること | narration |
| 語り手 | narrateur |
| 視点・焦点化 | focalisation |
| 自由間接話法 | style indirect libre |
| 受容 | réception |
| 生成(草稿の研究) | genèse |
| 間テクスト性 | intertextualité |
| 詩法 | versification |
| 修辞 | rhétorique |
| 表象 | représentation |
⚡ 使い方
- 作家名+この語で検索する。「Flaubert narration」。
- 日本語の論文にも、これらの語がそのまま片仮名で使われることが多い。両方で試す。
- 見つけた論文の題名から、さらに語を拾う。その分野で実際に使われている語が分かる。
⚡ 第3章の通過チェック
- 探すものを5種類に分け、それぞれの入口を言える
- 図書館で最初にやる3つを言える
- 日本語の論文を探す4つの入口を言える
- Gallica と Persée が何であるかを言える
- 電子テクストを使ってよい場面と、使ってはいけない場面を言える
- 事典を引いたあと必ずすることを言える
- 文献カードの6項目を言える
次章へ
文献が集まったら、次は読む段階になる。ただし全部を同じように読む必要はない。
次章は先行研究を読むである。どこまで読めば十分か、1本の論文から何を取り出すか、そして自分の論との関係をどう書くかを扱う。