詩法|第18章 定型詩の形 — ソネットとその周辺
この章の狙い
要点: 定型詩とは、行数・音節数・押韻の配列があらかじめ決まっている詩のことである。決まっているからこそ、どこで守り、どこで外したかが見える。
中心はソネットである。16世紀にフランスに入り、19世紀まで使われ続けた。この形を1つ覚えれば、フランス詩の大半が扱えるようになる。
ソネットの形
- 📘 ソネット:14行からなる定型詩。4行連2つ+3行連2つで組まれる。イタリアで生まれ、16世紀のフランスに入った。
| 部分 | 行数 | 押韻の配列 |
|---|---|---|
| 第1の四行連 | 4 | ABBA(抱擁韻)が標準 |
| 第2の四行連 | 4 | ABBA(同じ韻を繰り返す) |
| 第1の三行連 | 3 | CCD |
| 第2の三行連 | 3 | EED または EDE |
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フランスのソネットは、原則としてアレクサンドランで書かれる。12音節 × 14行が基本の形にあたる。
⚡ 三行連の2つの型
- CCD / EED — 16世紀にマロが用いた形。フランスで長く標準とされた。
- CCD / EDE — ペルチエが用いた形。後半が交差韻になる。
- どちらかを判定するのは、押韻表を作れば一瞬にあたる(第16章の5段階)。
転換
- 📘 転換:ソネットの四行連から三行連へ移るところで起きる、内容の切り替わりのこと。イタリア語ではヴォルタという。
⚡ ソネットの読み方
- 前半8行で状況や描写を置き、後半6行でそれを転じるのが基本の型にあたる。
- 転換の位置を特定する。9行目で切り替わるのが標準だが、ずれていることがある。そのずれが分析の対象になる。
- 最終行が重い。ソネットは最後の1行に落ちる形が多い。そこだけ独立させて分析する価値がある。
実際に見る — デュ・ベレーの四行連
『悔恨詩集』の1篇の冒頭4行を材料にする。1558年の作品にあたる。
⚡ 本文
- « Heureux qui, comme Ulysse, a fait un beau voyage,
- Ou comme cestuy-là qui conquit la toison,
- Et puis est retourné, plein d'usage et raison,
- Vivre entre ses parents le reste de son âge ! »
- 訳:ユリシーズのようによい旅をした者は幸いだ、/あるいは金羊毛(きんようもう)を得たあの者のように、/そして経験と分別に満ちて帰り、/親族のもとで残りの生涯を送る者は。
| 見るもの | 結果 |
|---|---|
| 音節数 | 全4行が12音節(第15章で数えたとおり) |
| 配列 | voyage(A) / toison(B) / raison(B) / âge(A) → ABBA。抱擁韻 |
| 性 | 女性 / 男性 / 男性 / 女性。交替の規則が守られている |
| 中間休止 | 1行目は « Heureux qui, comme Ulysse, ‖ a fait un beau voyage » で6+6 |
行末の4語を書き出すだけで、ここまで判定できる。これがソネット分析の入口にあたる。
ソネット以外の定型
名前だけ知っておけばよい。授業で出たときに調べられる。
| 名前 | 形 |
|---|---|
| ロンドー | 13行前後。冒頭の語句が繰り返し戻ってくる。中世から15世紀 |
| バラード | 3つの詩節+短い献辞(けんじ)の連。各詩節の末尾に同じ行が繰り返される |
| ヴィラネル | 19行。2つの行が交互に戻ってくる |
| 頌歌(しょうか) | 荘重(そうちょう)な主題を歌う。詩節の形は決まらない |
| 悲歌(ひか) | 死や喪失を歌う。形式より主題で分類される |
⚡ 共通する仕組み
- ロンドー・バラード・ヴィラネルに共通するのは「戻ってくる行」にあたる。
- 同じ行が、違う文脈で繰り返されると意味が変わる。これが分析の対象になる。
- どの位置に戻ってくるかを表にすると、その詩の構造が一目で分かる。
演劇の詩句
17世紀の悲劇と喜劇は、アレクサンドランで書かれている。押韻の配列は平韻(AABB)である。
- 📘 二行連(にぎょうれん):韻を踏む2行のまとまりのこと。平韻で書かれた劇では、この2行が意味の単位になる。
| 用語 | 意味 |
|---|---|
| 長台詞(ながぜりふ) | 1人の人物が長く語る部分。数十行に及ぶことがある |
| 一行対話 | 1行ずつ交互に応酬する形。緊迫した場面で使われる |
⚡ 劇詩を分析するときに見るもの
- 1つの台詞が何行か。長台詞と短い応酬の配置。
- 台詞が二行連の途中で切れるか。切れれば、人物が相手の言葉を奪っていることになる。
- 韻を2人で分け合う箇所。一方が前の行、他方が韻を踏む行を言う。対立や共犯の関係が、韻の上で作られる。
この3つ目は、劇詩でしか起きない現象にあたる。見つけたら必ず論じる価値がある。
定型を判定する手順
⚡ 未知の詩を前にしたとき
- 1. 行数を数える。14行ならソネットの可能性が高い。
- 2. 詩節の分かれ方を見る。4-4-3-3 ならソネット。
- 3. 音節数を数える(第15章)。全行同じか。
- 4. 行末の語を書き出し、配列を判定する(第16章)。
- 5. 繰り返される行があるかを見る。あればロンドー系の可能性。
- 6. どれにも当てはまらないなら、定型ではない。次章へ。
⚠️ 定型の判定でよくある2つ
- 14行あればソネットだと決める。押韻の配列も確かめる。14行の非ソネットは存在する。
- 形が崩れているから定型ではないと決める。崩し方に規則性があれば、それは定型を意識した上での逸脱にあたる。19世紀後半にはこれが多い。
ソネットを分析する — 手順
⚡ 14行を前にしたときの5段階
- 1. 4-4-3-3 に分かれているかを確かめる。空行で分かれていないこともある。
- 2. 全行の音節数を数える。アレクサンドランか、十音節か。
- 3. 押韻表を作る(第16章)。四行連が ABBA を2回繰り返しているか。
- 4. 三行連の型を判定する。CCD EED か、CCD EDE か。
- 5. 転換の位置を探す。9行目か、それともずれているか。
| 判定の結果 | 何が言えるか |
|---|---|
| 完全に規則どおり | 形式は背景にあたる。意味の分析に進む |
| 四行連の押韻が ABAB | 抱擁韻ではない。16世紀以降では変則にあたる |
| 転換が9行目ではない | その位置に何が書かれているかを見る |
| 最終行だけ音節数が違う | 強調。必ず論じる価値がある |
最終行の重み
ソネットは最後の1行に落ちる。
⚡ 最終行で見るもの
- その行だけを取り出して読む。独立して意味が通るか。
- 前の13行との関係。まとめか、転換か、それとも宙づりか。
- 音節数とリズム。そこだけ変わっていないか。
- その行に置かれた語。行末の語が、詩全体の主題語になっていることがある。
ネルヴァルの『幻想詩集』の1篇のように、冒頭の1行が有名になる場合もある。冒頭と末尾の両方を、独立して見る。
定型を守ることの意味
⚠️ 「型にはまっている」を欠点と読まない
- 定型は制約ではなく、共有された枠組みにあたる。
- 読者は形を知っているので、そこからの逸脱に気づける。
- 逸脱が意味を持つのは、型があるからにほかならない。
- 17世紀の詩人が定型を守っているのは、当然のことであって、論点にならない。
| 時代 | 定型を守ることの意味 |
|---|---|
| 16〜18世紀 | 当然の前提。守ること自体は論点にならない |
| 19世紀 | 選択になる。守るか外すかが意識される |
| 20世紀以降 | 意図的な選択にあたる。あえて定型で書くこと自体が主張になる |
同じ「ソネットである」という事実が、時代によって意味を変える。そこを踏まえると、形式の分析が歴史の分析につながる。
⚡ 第18章の通過チェック
- ソネットの行数と詩節の構成を言える
- 四行連と三行連の押韻の配列を言え、三行連の2つの型を言える
- 転換とは何か、どこで起きるかを言える
- デュ・ベレーの四行連について、音節数・配列・性を説明できる
- ロンドー・バラード・ヴィラネルに共通する仕組みを言える
- 劇詩の押韻の配列と、二行連が意味の単位になることを言える
- 韻を2人で分け合う現象と、その分析上の意味を言える
- 定型を判定する6段階を言える
次章へ
定型が分かった。次は、その定型が外れていく過程である。
次章は定型が外れるを扱う。自由詩、散文詩、句読点のない詩、ページの上に散らばる詩。外れ方は、外れる前の形を知っている人にしか見えない。ここまでの5章が、そのために必要だった。