詩法|第17章 リズムと切れ目 — 詩句の内部構造
この章の狙い
要点: アレクサンドランの12音節は、均等に並んでいるのではない。真ん中で大きく切れ、その左右がさらに小さく切れる。この切れ方がリズムを作っている。
そして切れ方が規則から外れる箇所と、文が行をまたぐ箇所が、詩の分析で最も実りの多い場所にあたる。規則を知っているから、外れが見える。
中間休止
- 📘 中間休止(ちゅうかんきゅうし):詩句の内部にある、決まった位置の大きな切れ目のこと。フランス語ではセジュールという。
- 📘 半句(はんく):中間休止で分けられた、詩句の前半と後半のこと。
| 詩型 | 中間休止の位置 | 半句 |
|---|---|---|
| アレクサンドラン(12) | 6音節目のあと | 6 + 6 |
| 十音節(10) | 4音節目のあとが標準 | 4 + 6 |
| 八音節(8) | なし(短いので不要) | — |
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⚡ 確かめてみる
- ラシーヌ『フェードル』:« Le jour n'est pas plus pur ‖ que le fond de mon cœur. »
- 前半:Le / jour / n'est / pas / plus / pur = 6音節
- 後半:que / le / fond / de / mon / cœur = 6音節
- 中間休止の位置に、意味の切れ目も来ている。「陽の光も清らかではない ‖ 私の心の底ほどには」。
- 形式と意味が一致している。古典主義の詩句の典型にあたる。
小さな切れ目
半句の内部にも、さらに小さな切れ目がある。
- 📘 切れ(coupe):語のまとまりの終わりに置かれる、小さな区切りのこと。そのまとまりの最後の音節が、少し強く読まれる。
フランス語には語ごとのアクセントがないので(第14章)、強めるのはまとまりの最後になる。切れの位置が、そのままリズムを決める。
⚡ リズムの表し方
- 各まとまりの音節数を、数字の列で書く。
- 6 + 6 のアレクサンドランで、前半が 2 + 4、後半が 3 + 3 なら、2/4//3/3 と書ける。
- この数字の列を、詩の全行について作ると、リズムの変化が目に見える。
- 全行が同じ数字になることはまずない。変化する箇所が、分析の対象になる。
規則が破られるとき
19世紀のロマン派は、中間休止の位置を意図的にずらした。
- 📘 三分割のアレクサンドラン:12音節を 6+6 ではなく、4+4+4 の3つに分ける形のこと。ロマン派が好んで用いた。
⚡ ユゴーの自己言及的な一行
- « J'ai disloqué ce grand niais d'alexandrin. »(私はこの間抜けなアレクサンドランを脱臼させた)
- J'ai / dis / lo / qué(4)ce / grand / ni / ais(4)d'a / lex / an / drin(4)
- 合計12音節だが、切れ目は 4/4/4 である。6音節目は「ce」の途中ではなく「grand」の内部にあたり、中間休止が置けない。
- 述べている内容と、その内容を実演している形式が一致している。アレクサンドランを壊すと宣言する行が、実際に壊れた形で書かれている。
⚠️ 「破格」を見つけたときの注意
- まず、本当に破格かを確かめる。数え間違いのことが多い(第15章)。
- その詩の他の行と比べる。その詩の中で例外なら意味がある。全行がそうなら、それがその詩の規則にあたる。
- 時代を確認する。17世紀の詩での破格と、19世紀での破格は重みが違う。
行をまたぐ
文の切れ目と行の切れ目がずれるとき、独特の効果が生まれる。
| 名前 | 何が起きるか |
|---|---|
| またがり | 文が、行末で終わらずに次の行へ続く |
| 送り | 前の行から続いた短い要素が、次の行の頭に置かれる |
| 先送り | 行末に置かれた短い要素が、次の行につながる |
⚡ ラ・フォンテーヌの例
- « Un Agneau se désaltérait / Dans le courant d'une onde pure. »(一頭の子羊が喉を潤していた/澄んだ流れの中で)
- 1行目で文は終わらない。「どこで」が次の行に送られている。
- 行末でいったん切れ、そのあとに場所が明かされる。読者は一瞬待たされる。
- これがまたがりにあたる。
⚡ またがりを見つけたら書くこと
- どの語が次の行の頭に置かれているか。その語が、行頭という目立つ位置に置かれることで強調される。
- 待たされることで、何が起きるか。期待、驚き、宙づり。
- その詩の中で何回起きるか。1回なら特別な効果、多用されているならその詩の方法にあたる。
⚠️ またがりを「詩人が規則を守れなかった」と読まない
- 意図的な技法である。古典主義でも用いられ、ロマン派以降は積極的に使われた。
- むしろ、まったく起きない詩のほうが特殊にあたる。全行が行末で切れる詩は、単調になりやすい。
リズムの分析をレポートにする
⚡ 手順
- 1. 全行の音節数を数える(第15章)。
- 2. 中間休止の位置を確かめる。6音節目のあとで切れるか。
- 3. 各行のリズムを数字の列で書く。
- 4. 例外を拾う。中間休止が置けない行、またがりのある行。
- 5. 例外の位置と、詩の意味の展開を重ねる。
5が結論になる。「音節数が乱れる3行は、いずれも◯◯が語られる箇所にあたる」という形が書ければ、形式と意味を結んだ分析になる。
⚠️ リズム分析でやりがちな2つ
- 数字を並べただけで終わる。「2/4//3/3」を書いて満足しない。そこで何が起きているかを書く。
- すべての行を分析しようとする。例外だけを扱えばよい。規則どおりの行は、背景にあたる。
十音節と八音節の切れ目
アレクサンドラン以外の詩型も見ておく。
| 詩型 | 標準的な切れ方 | 使われた時期 |
|---|---|---|
| 十音節 | 4 + 6 | 中世の武勲詩、ルネサンスの詩 |
| 十音節(別型) | 5 + 5 | まれ |
| 八音節 | 中間休止なし | 中世から現代まで。物語詩、軽い抒情詩 |
| 七音節・九音節 | なし | 19世紀後半以降 |
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⚡ 八音節に中間休止がない理由
- 短いので、途中で大きく切る必要がない。
- 1つのまとまりとして読める長さにあたる。
- だから軽く、速く感じられる。物語や歌に向く。
- アレクサンドランの重さと対比される。同じ詩人が使い分けている場合、それ自体が分析の対象になる。
中間休止が置けない形
三分割(4+4+4)以外にも、中間休止が壊れる形がある。
| 形 | 何が起きているか |
|---|---|
| 6音節目が語の内部にある | 中間休止が置けない |
| 6音節目のあとに切れ目がない | 意味の上で切れない |
| 6音節目の e がエリジョンで消える | 半句の境界が曖昧になる |
⚠️ どれも、まず数え直す
- 数え間違いであることが最も多い(第15章)。
- その詩の他の行がすべて6+6なら、その行だけが例外にあたる。分析する価値がある。
- 全行がそうなら、それがその詩の方法である。時代を確認する。
リズムを表にする
第15章・第16章の表に、リズムの列を足す。
| 行 | 音節 | リズム | 行末の語 | 韻 | 性 |
|---|---|---|---|---|---|
| 1 | 12 | 2/4 // 3/3 | — | A | 女性 |
| 2 | 12 | 4/4/4 | — | B | 男性 |
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⚡ 表の使い方
- リズムの列だけを縦に読む。同じ数字が続くか、変化するか。
- 変化する行に印を付ける。
- 印の付いた行に何が書かれているかを見る。
- 形式の変化と意味の変化が重なる箇所が見つかれば、それが論の中心になる。
この表が、詩の分析の完成形にあたる。音節・リズム・韻・性が1枚に収まっている。
⚡ 第17章の通過チェック
- 中間休止と半句を説明できる
- アレクサンドランと十音節の中間休止の位置を言える
- ラシーヌの詩句を6+6に分けられる
- 切れとは何か、フランス語で強めるのがどこかを言える
- 三分割のアレクサンドランを説明でき、ユゴーの一行で示せる
- またがり・送り・先送りを言い分けられる
- またがりを見つけたあとに書くべき3つを言える
- リズム分析の5段階を言え、結論になるのがどれかを言える
次章へ
数え方・韻・切れ目という3つの道具が揃った。次はそれを組み合わせた形、すなわち詩型である。
次章は定型詩の形を扱う。ソネットの14行がどう組み立てられているか、押韻がどう定まっているか。形が分かると、その形をどこで破っているかが見えるようになる。