詩法|第15章 音節を数える — 詩句と無音の e
この章の狙い
要点: 数え方の規則は4つしかない。そのうち3つは、語末の e(無音の e)をどう扱うかの規則である。
この章を通れば、アレクサンドランが本当に12音節であることを、自分の手で確かめられるようになる。印象で語る段階から、測れる段階に移る。
基本の原則
- 📘 音節:1つの母音を核とする、発音上のまとまりのこと。フランス詩では、発音される母音の数がそのまま音節の数になる。
⚡ 原則
- 発音される母音1つにつき、1音節。
- 子音は数えない。「strict」は母音が1つなので1音節にあたる。
- 綴りではなく音で数える。「eau」は母音字3つだが、音は1つなので1音節。
- 数えるのは詩句1行ごと。行をまたいで数えない。
| 語 | 音節 | 数 |
|---|---|---|
| jour | jour | 1 |
| beau | beau | 1 |
| ami | a-mi | 2 |
| automne | au-tom-ne | 3(ただし行末では2) |
| alexandrin | a-lex-an-drin | 4 |
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無音の e の3つの規則
- 📘 無音の e:語末や語中に現れる e で、日常会話ではほとんど発音されないもの。フランス語では e muet または e caduc という。詩では、位置によって数えたり数えなかったりする。
これが、フランス詩の数え方で唯一やっかいな点にあたる。規則は3つだけである。
| 位置 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| ① 次の語が子音で始まる | 数える | 発音されるから |
| ② 次の語が母音(または無音の h)で始まる | 数えない(エリジョン) | 前後の音がつながるから |
| ③ 詩句の末尾 | 数えない | 行末では消えるから |
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- 📘 エリジョン:語末の母音が、次の語の母音の前で消える現象のこと。書くときは « l'automne » のようにアポストロフで示すが、詩では書かれないまま音だけが消える場合もある。
⚡ 3規則の覚え方
- 子音の前なら数える。母音の前なら消える。行末なら消える。
- この一行だけ覚えれば足りる。
- 動詞の三人称複数の語尾 -ent も、無音の e と同じ扱いになる。
数えてみる(1)— アレクサンドラン
ラシーヌ『フェードル』から。
⚡ « Le jour n'est pas plus pur que le fond de mon cœur. »
- 訳:陽の光も、私の心の底ほどには清らかではない。
- Le(1) / jour(2) / n'est(3) / pas(4) / plus(5) / pur(6) / que(7) / le(8) / fond(9) / de(10) / mon(11) / cœur(12)
- 合計12音節。アレクサンドランである。
- 「que」「le」「de」の e は、いずれも次が子音なので規則①により数える。
数えてみる(2)— エリジョンが2回
デュ・ベレー『悔恨(かいこん)詩集』の有名な冒頭。
⚡ « Heureux qui, comme Ulysse, a fait un beau voyage »
- 訳:ユリシーズのように、よい旅をした者は幸いだ。
- comme の e は、次が Ulysse(母音)なので消える(規則②)。
- Ulysse の e は、次が a(母音)なので消える(規則②)。
- Heu(1) / reux(2) / qui(3) / com(4) / m'U(5) / lys(6) / s'a(7) / fait(8) / un(9) / beau(10) / vo(11) / ya(12)
- 末尾 voyage の最後の e は、行末なので数えない(規則③)。
- 合計12音節。
エリジョンが2回起きているのに、正確に12になる。規則どおりに数えれば必ず合う。
数えてみる(3)— 短い詩句
ヴェルレーヌ「秋の歌」の冒頭。
| 詩句 | 数え方 | 音節数 |
|---|---|---|
| « Les sanglots longs » | Les / san / glots / longs | 4 |
| « Des violons » | Des / vi / o / lons | 4 |
| « De l'automne » | De / l'au / tom / ne(行末の e は数えない) | 3 |
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4・4・3 の並びになる。この形が繰り返される。
ここで注意すべきは « violons » である。日常の発音では2音節に近いが、この詩句では3音節に数えないと4にならない。次の規則が働いている。
二重母音を割るか割らないか
- 📘 ディエレーズ:隣り合う2つの母音字を、2音節に分けて読むこと。「violons」を vi-o-lons と読む形にあたる。
- 📘 シネレーズ:隣り合う2つの母音字を、1音節にまとめて読むこと。「violons」を vio-lons と読む形にあたる。
| 語 | 割る(ディエレーズ) | 割らない(シネレーズ) |
|---|---|---|
| violon | vi-o-lon(3) | vio-lon(2) |
| nation | na-ti-on(3) | na-tion(2) |
| lion | li-on(2) | lion(1) |
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⚠️ どちらかは、詩句の音節数から逆算する
- 規則で一意に決まらない。語源や慣習である程度は決まるが、最終的には「その行が何音節になるべきか」から決める。
- 1音節足りないなら、割る。1音節多いなら、割らない。
- これは手抜きではなく、正規の手順にあたる。詩型が先にあり、読み方がそれに従う。
- ディエレーズは目立つ。指摘したうえで「ここで音が引き延ばされる」と論じられる。
母音の衝突
- 📘 ハイアタス:語と語の間で、母音が続けて衝突すること。「tu as」のように、エリジョンできない形で母音が並ぶ場合を指す。
古典主義の詩ではこれを避ける規則があった。19世紀以降はゆるむ。
⚡ 規則が守られているかを見る
- 17世紀の詩でハイアタスがあれば、それは例外的な事態にあたる。指摘する価値がある。
- 19世紀以降では珍しくない。避けられていないこと自体は論点にならない。
- 時代によって規則が違うので、その作品の時代の規則で判定する。
数え間違いを防ぐ
⚠️ よくある4つの間違い
- 行末の e を数えてしまう。必ず1多くなる。まず行末を確認する習慣をつける。
- エリジョンを見落とす。「comme Ulysse」を4音節と数えてしまう。母音の前の e を探す。
- 綴り字で数える。「beaucoup」は母音字が4つあるが、2音節にあたる。音で数える。
- 二重母音を機械的に処理する。合わないときは、割るか割らないかを疑う。
⚡ 確かめ方
- 同じ詩の他の行を数える。全行が同じ数になるはずである。1行だけ合わないなら、その行の数え方が間違っている。
- 合わない行が複数あるなら、詩型の判定が間違っている。12ではなく10かもしれない。
- 奇数音節の可能性も残す。9音節や7音節の詩は存在する。
語中の e と、その他の注意
語末以外の e も、位置によって扱いが変わる。
| 位置 | 扱い | 例 |
|---|---|---|
| 語頭・語中で発音される | 数える | re-mède の re |
| 語中で発音されない | 数えない | 「samedi」の e は落ちることがある |
| -ent(動詞の三人称複数) | 語末の e と同じ扱い | 子音の前なら数える |
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⚡ 迷ったときの原則
- その語を、詩を朗読するようにゆっくり発音してみる。
- 朗読では、日常会話より e が多く発音される。詩の朗読は、この e を落とさない。
- それでも決まらないなら、行全体の音節数から逆算する(本章のディエレーズと同じ考え方)。
3種類の詩型を数え分ける
同じ手順で、8音節・10音節・12音節を判定する。
⚡ 判定の流れ
- 1. 1行目を数える。
- 2. 2行目、3行目も数える。
- 3. 3行とも同じなら、それがその詩の音節数にあたる。
- 4. 違うなら、規則的に変わるかを見る。「秋の歌」のように 4・4・3 が繰り返される形がある。
- 5. 不規則なら、自由詩の可能性がある(第19章)。
| 数えた結果 | 判定 |
|---|---|
| 全行12 | アレクサンドラン |
| 全行10 | 十音節 |
| 全行8 | 八音節 |
| 4・4・3の繰り返し | 短い詩句を組み合わせた形 |
| 全行9、7、11など奇数 | 奇数音節。19世紀後半以降の可能性 |
| ばらばら | 自由詩、または数え間違い |
数えた結果を記録する
⚡ 押韻表と一緒に作る
- 行番号 / 音節数 / 行末の語 / 韻の記号 / 性の5列で表を作る。
- 詩1篇について、この表を1つ作れば、形式の分析は済んでいる。
- 表を作った時点で、必ず1つは気づくことが出てくる。「この行だけ音節が多い」「ここで性の交替が崩れる」。
- その気づきが、そのままレポートの出発点になる。
⚠️ 表を作らずに印象で語らない
- 「この詩はリズムが軽やかである」は、根拠のない記述にあたる。
- 「全行8音節で、押韻は交差韻」は、確かめられる事実である。
- 事実を先に置き、そこから印象を説明する。この順序を守る。
⚡ 第15章の通過チェック
- 音節を数える原則を3つ言える
- 無音の e の3規則を、位置ごとに言える
- エリジョンとは何かを説明できる
- ラシーヌの詩句を実際に12音節に数えられる
- 「comme Ulysse, a fait」でエリジョンが2回起きることを説明できる
- ディエレーズとシネレーズの違いと、どちらかを決める方法を言える
- ハイアタスとは何か、時代による扱いの違いを言える
- 数え間違いの4つの型を言える
次章へ
行の長さが測れるようになった。次は行の終わりである。
次章は押韻を扱う。どの行とどの行が韻を踏むか、その韻はどれくらい濃いか、そして韻の「性」という、フランス詩に固有の規則。韻の並びが分かると、詩型が判定できるようになる。