分析|第13章 修辞 — 比喩と文彩を見分ける
この章の狙い
要点: 修辞(しゅうじ)の名前を覚える目的は、分類することではなく、見つけられるようになることである。名前を知らない形は、目の前にあっても見えない。
そして見つけたあとが本番である。「これは隠喩(いんゆ)である」で止まると、何も言っていないことになる。その比喩が何と何を結んでいて、それによって何が起きているのかまで書いて、初めて分析になる。
- 📘 修辞:言葉を、通常とは違う形で用いて効果を生む技術のこと。フランス語ではレトリック。個々の技法を文彩(ぶんさい)と呼ぶ。
比喩の4つ
| 名前 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| 直喩(ちょくゆ) | 「〜のように」を使って2つを並べる | 「氷のように冷たい手」 |
| 隠喩 | 「〜のように」を使わず、一方を他方として述べる | 「彼女の心の氷」 |
| 換喩(かんゆ) | 隣接するもので置き換える | 「ペンを執(と)る」(ペン=書く行為) |
| 提喩(ていゆ) | 部分で全体を、全体で部分を指す | 「一枚の帆が見えた」(帆=船) |
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⚡ 4つを見分ける手順
- 「のように」があるか → あれば直喩。
- なければ、2つのものが似ているか、隣り合っているか → 似ているなら隠喩、隣り合っているなら換喩。
- 部分と全体の関係か → 提喩。
- 迷ったら、隠喩と換喩の区別だけ付ければ十分にあたる。細かい分類より、何と何が結ばれているかのほうが重要である。
⚠️ 比喩を見つけたあとに書くこと
- 何と何を結んでいるか。「心」と「氷」。
- どちらの領域から、どちらへ移されているか。物質の領域から感情の領域へ。
- その作品の中で、同じ領域の比喩が繰り返されるか。繰り返されるなら、それはその作品の比喩の体系にあたる。
- 3つ目が最も論になりやすい。1つの比喩を論じるより、同種の比喩を集めるほうが強い。
対比と逆説
| 名前 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| 対句(ついく) | 同じ形の句を並べる | 「昼は働き、夜は書く」 |
| 対照法 | 反対のものを並べて際立たせる | 「都市の光と、路地の闇」 |
| 撞着語法(どうちゃくごほう) | 矛盾する語を直接結ぶ | 「輝く闇」 |
| 逆説 | 一見矛盾するが、考えると通る言い方 | 「急がば回れ」 |
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⚡ 対比を見つけたら
- 対比される2項を書き出す。光/闇、内/外、上/下、都市/田舎。
- 作品全体で同じ対比が繰り返されるかを確かめる。繰り返されるなら、その作品の構造にあたる。
- どちらの項に価値が置かれているかを見る。置かれていない場合、それ自体が特徴になる。
反復
| 名前 | 仕組み |
|---|---|
| 首句反復 | 複数の句や行の先頭で、同じ語を繰り返す |
| 畳語法(じょうごほう) | 同じ語をすぐ続けて繰り返す |
| 列挙 | 同種のものを並べる |
| 漸層法(ぜんそうほう) | 程度を強めながら並べる |
⚡ 反復を分析するときの3つの問い
- 何回か。数える。
- どこに集中しているか。冒頭か、末尾か、特定の人物の台詞か。
- 強調か、空転か。同じ語の繰り返しが、意味を強めているのか、意味を失わせているのか。不条理の演劇では後者が意図的に使われる。
強調と抑制
| 名前 | 仕組み | 例 |
|---|---|---|
| 誇張法 | 大げさに言う | 「千回も言った」 |
| 緩叙法(かんじょほう) | 控えめに言って、かえって強める | 「悪くない」(=とてもよい) |
| 曲言法(きょくげんほう) | 否定を使って肯定を言う | 「知らないわけではない」 |
| 省略 | 言わずに済ませる | 「もし彼が来ていれば……」 |
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⚡ 緩叙法はフランス文学で重要な技法にあたる
- 古典主義の作品では、激しい感情ほど抑えた言い方で示される。
- 抑制された言い方が出てきたら、その裏を読む。
- ラシーヌ『フェードル』の « Le jour n'est pas plus pur que le fond de mon cœur. »(陽の光も、私の心の底ほどには清らかではない)は、「私は潔白だ」を、否定と比較を使って述べている。
語順と構文
| 名前 | 仕組み |
|---|---|
| 倒置 | 通常の語順を入れ替える |
| 挿入 | 文の途中に別の要素を差し込む |
| 接続詞の省略 | 「そして」を省いて並べる。速度が上がる |
| 接続詞の多用 | 「そして」を重ねる。列挙が続く印象を作る |
⚠️ フランス語の倒置は日本語より重い
- フランス語は語順が意味を決める言語なので、倒置は目立つ。
- 詩では、韻を踏むために倒置が起きることがある(第16章)。この場合、意味的な効果を読み込みすぎない。
- 散文での倒置は、ほぼ必ず効果を狙っている。そこは分析の対象になる。
見つけたあと何を言うか
修辞を列挙しただけのレポートは、最も多い失敗の1つにあたる。
| 書き方 | 評価 |
|---|---|
| 「ここには隠喩が用いられている」 | 分類しただけ。論ではない |
| 「隠喩によって表現が豊かになっている」 | 何も言っていない |
| 「氷・霜・冷気の隠喩が第2部に◯箇所集中する。第1部には◯箇所しかない。この偏りは、〜と対応している」 | 数と分布を示し、他の要素と結んでいる |
⚡ 修辞を論にする3手順
- 1. 同じ種類のものを集める。1つでは偶然かもしれない。
- 2. 分布を見る。どの部分に集中しているか。
- 3. 他の要素と結ぶ。筋の展開、人物の変化、語りの変化と重なるか。
比喩の体系を作る
1つの比喩を論じるより、同じ領域の比喩を集めるほうが強い(本章の3手順)。実際の作り方を示す。
⚡ 手順
- 1. 作品を読みながら、比喩に印を付ける。種類は問わない。
- 2. 印を付けた比喩を、「何の領域から来ているか」で分類する。水・火・光・闇・動物・機械・病・戦い・貨幣など。
- 3. 領域ごとに数える。どの領域が多いか。
- 4. 分布を見る。特定の人物、特定の場面に偏っていないか。
- 5. 偏りを、筋や主題と結ぶ。
| 領域の例 | よく結びつくもの |
|---|---|
| 水・流れ | 時間、感情、忘却 |
| 光・闇 | 認識、道徳、真実 |
| 動物 | 本能、身分の低さ、力 |
| 病 | 社会の状態、道徳の腐敗 |
| 貨幣・取引 | 人間関係、感情の交換 |
⚠️ 領域の分類は自分で作る
- 既成の一覧に当てはめようとしない。その作品に出てくる領域を、読みながら作る。
- 分類の基準を書く。「本稿では、〜を〜の領域に含めた。」再現できる形にする(第10章)。
- どこにも入らない比喩は、無理に入れない。「分類できないものが◯例あった」と書けばよい。
フランス語で修辞を見るとき
日本語訳では消える修辞がある。
| 消えるもの | 理由 |
|---|---|
| 音による技法(頭韻・母音反復) | 音が変わる |
| 語順による強調(倒置) | 日本語の語順が違う |
| 語の多義性を使った表現 | 訳語は1つの意味しか持てない |
| 同じ語根の反復 | 訳語が別々の語になる |
⚡ 原文に当たるべき場面
- 音を論じるとき。必ず原文(第5章)。
- 同じ語の繰り返しを論じるとき。訳では別の語になっている可能性がある。
- 逆に、比喩の内容そのものを論じるなら、訳でも扱える。「心の氷」は訳しても残る。
名前が分からないとき
修辞の名前が分からなくても、分析はできる。
⚡ 名前より先に書くこと
- どんな操作が行われているか。「AをBとして述べている」「同じ語が3回繰り返される」。
- その操作が何を作っているか。
- 名前は、あとから事典で確かめればよい(第3章)。
- 名前だけ正しくて操作の記述がないより、名前がなくても操作が正確に書けているほうが、はるかによい。
⚡ 第13章の通過チェック
- 修辞を学ぶ目的を一文で言える
- 比喩の4つを、仕組みの面から言い分けられる
- 比喩を見つけたあとに書くべき3つを言える
- 対照法と撞着語法の違いを言える
- 反復を分析する3つの問いを言える
- 緩叙法とは何か、フランス古典主義で重要な理由を言える
- 修辞を論にする3手順を言える
次章へ
ここまでは散文にも詩にも使える道具だった。次からは詩だけの道具に入る。
次章から第19章までが詩法である。フランス詩は音節の数で作られている。数え方さえ分かれば、詩は「読むもの」から「測れるもの」に変わる。まず、その枠組みを確認する。